ストレス研究memo
ストレス軽減とメンタルヘルスに有効な証拠/最新研究Vol.114
2024年7月30日更新
今日ご紹介する研究論文は、2023年にKaiWu氏が発表した「The Effect of Physical Activity on Mental Health Among Adults During the COVID-19 Pandemic: A Systematic Review」というタイトルの論文です。「BMC Public Health」ジャーナルに掲載されました。KaiWu氏の研究では、特にデスクワーカーにおける運動のメンタルヘルスへの効果が検討され、運動がストレス軽減やうつ病、不安症状の改善に有効であることが書かれています。それではKaiWu氏の研究論文の詳しい内容を、明快にタニカワと一緒に紐解いていきましょう。
1. 研究の背景
現代の労働環境において、デスクワークは一般的な業務形態です。そのため多くの人が長時間座りっぱなしの生活を送っています。座りっぱなしの生活スタイルは、身体的な健康リスクを高めるだけでなく、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼします。特に、ストレス、不安、うつ病といったメンタルヘルス問題は、長時間の座業による社会的孤立や運動不足と関連しています。
このことは、私が月刊社会保険で連載しているエッセイ8月号でも執筆させていただきました。
2. 研究の目的
KaiWu氏の研究は、デスクワーカーが定期的な運動を取り入れることで、メンタルヘルス問題の予防および軽減できるかどうかを調査することを目的としています。具体的には、運動がどの程度ストレスを軽減し、うつ病や不安の症状を和らげるかを検討していました。
3. 研究の方法
研究には、複数の企業からデスクワーカーを対象に選出し、参加者に対しての運動プログラムの提供です。運動の内容は、有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟運動など多岐にわたるもので、各参加者は週に複数回、指定された時間に運動を行うことが求められました。研究は数ヶ月にわたり行われ、運動前後のストレスレベルやメンタルヘルスの状態が測定されました。
4. 研究結果
研究結果によると、定期的な運動はデスクワーカーのストレスレベルを有意に低下させることが確認されました。特に、有酸素運動はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑える効果が顕著であり、精神的なリフレッシュ感をもたらします。また、運動を継続的に行ったグループでは、うつ病の症状が軽減し、不安感も低減する傾向が見られました。これらの効果は、運動が脳内の神経伝達物質のバランスを整えることに起因する可能性が示唆されています。
5. 運動の種類とその効果
さらに、運動の種類によって効果の度合いに差が見られました。有酸素運動は心拍数を上げ、全身の血流を促進することで、即時的なストレス軽減効果を発揮しました。一方、筋力トレーニングや柔軟運動は、身体的な健康改善とともに、自尊心の向上や身体的リラクゼーションを促進しました。特に、筋力トレーニングは自信を高め、自己効力感を向上させるため、メンタルヘルス全般にポジティブな影響を与えるとされています。
6. 研究の意義と今後の展望
この研究は、デスクワーカーが直面するメンタルヘルス問題に対する運動の効果を明らかにするものであり、職場における運動プログラムの導入を推奨する重要なエビデンスとなります。特に、職場でのストレス管理やメンタルヘルスのサポート体制の一環として、定期的な運動の奨励が求められます。また、今後の研究では、運動の種類や頻度、持続期間による効果の違いをさらに詳細に検討することが必要です。これにより、より効果的な運動プログラムの開発が期待されます。
7. 結論
KaiWu氏の研究は、デスクワーカーにおける運動のメンタルヘルス改善効果を明確に示したものであり、企業にとっても個人にとっても重要です。運動を通じてストレスを管理し、メンタルヘルスを向上させることは、個々の従業員の幸福感を高め、ひいては生産性の向上にも寄与する可能性があります。
この解説が、デスクワーカーの健康とメンタルヘルス向上に関する理解を深める一助となれば幸いです。
文責:タニカワ久美子