ストレス管理
4つの運動モードにおけるストレス軽減と気分向上
運動はストレス軽減に役立つと言われます。
しかし、すべての運動が同じように気分をよくするわけではありません。
同じ「体を動かす」活動でも、ハタヨガ、水泳、筋力トレーニングを含む運動、フェンシングのような競技では、感じ方や気分への影響が変わることがあります。
この記事では、BergerとOwenによる1988年の研究をもとに、運動の種類によってストレス軽減や気分向上の出方がどう違うのかを整理します。
人事総務・健康経営担当者が、職場で運動を取り入れるときに気をつけたい点もあわせて解説します。
運動とストレス軽減の関係
ストレス対策として運動を取り入れる企業や学校は少なくありません。
運動には、気分転換、緊張の緩和、達成感、睡眠の改善、体力維持などに役立つ可能性があります。
ただし、運動を職場で使うときに大切なのは、「とにかく運動すればよい」と考えないことです。
運動の種類、強度、競争の有無、本人の好み、体力、参加しやすさによって、ストレス軽減につながる場合もあれば、逆に負担になる場合もあります。
この点を考えるうえで参考になるのが、4つの運動形式を比較した研究です。
研究の概要
今回紹介する研究は、BergerとOwenによる1988年の論文です。
論文タイトルは、Stress Reduction and Mood Enhancement in Four Exercise Modes: Swimming, Body Conditioning, Hatha Yoga, and Fencing です。
この研究では、次の4つの運動形式が、ストレス軽減や気分向上にどのような影響を与えるかが検討されました。
- スイミング
- ボディコンディショニング
- ハタヨガ
- フェンシング
研究では、運動の前後で気分や不安の変化が調べられました。
ポイントは、「運動なら何でも同じ」ではなく、運動の特徴によって心理的な効果が変わる可能性を見ている点です。
気分の測定に使われたPOMSとは
この研究では、気分の変化を見るためにPOMSが使われました。
POMSとは、気分の状態をいくつかの面から確認する心理尺度です。
主に、次のような気分を見ます。
- 緊張・不安
- 落ち込み
- 怒り
- 活力
- 疲労
- 混乱
職場で考えると、POMSのような尺度は、研修や運動プログラムの前後で「気分がどう変わったか」を見るための参考になります。
ただし、尺度の点数だけで社員の状態を決めつけるべきではありません。本人の体調、仕事量、睡眠、職場環境も合わせて見る必要があります。
不安の測定に使われたSTAIとは
この研究では、不安の変化を見るためにSTAIも使われました。
STAIは、不安を測る心理尺度です。
不安には、その場で高まる一時的な不安と、もともと不安を感じやすい傾向があります。
- 状態不安:その場で感じている一時的な不安
- 特性不安:ふだんから不安を感じやすい傾向
職場のストレス対策でも、この違いは重要です。
ある社員が一時的に緊張しているのか、長く不安を抱えているのかによって、必要な支援は変わります。
4つの運動形式の違い
この研究で比較された運動は、どれも体を動かす活動ですが、内容は大きく違います。
| 運動形式 | 特徴 | 職場で考えるときの注意点 |
|---|---|---|
| スイミング | 水中で全身を使う運動。呼吸とリズムが関係する | 施設や着替えが必要で、職場施策としては導入条件が限られる |
| ボディコンディショニング | 筋力トレーニングや有酸素運動を含む身体づくり | 強度が高すぎると、運動が苦手な人には負担になりやすい |
| ハタヨガ | 姿勢、呼吸、ゆっくりした動きを組み合わせる | 短時間でも取り入れやすく、休憩や研修に組み込みやすい |
| フェンシング | 相手との駆け引き、瞬発力、集中力が必要な競技 | 競争性があるため、人によっては緊張や負担になる場合がある |
運動による気分の変化は、運動量だけでは決まりません。
本人が安心して参加できるか、競争が強すぎないか、動きが分かりやすいか、終わったあとに疲れすぎないかが大切です。
研究結果から見えること
この研究では、運動形式によって気分への影響に違いがある可能性が示されています。
特に、ハタヨガのように、ゆっくりした動き、呼吸、予測しやすい流れがある運動は、気分を整えるうえで役立ちやすい可能性があります。
一方で、競争性が強い運動や、体力差が出やすい運動は、人によって受け止め方が変わります。
「運動は体に良いから」と一律にすすめるのではなく、社員が安心して取り組める形を選ぶことが重要です。
ハタヨガが職場で使いやすい理由
ハタヨガは、職場のストレス対策として取り入れやすい運動の一つです。
理由は、強い競争がなく、呼吸や姿勢をゆっくり整えやすいからです。
たとえば、会議前の短い呼吸、研修中の軽いストレッチ、昼休みの簡単な身体ほぐしなどは、職場でも取り入れやすい方法です。
ただし、ヨガにも注意点があります。
体が硬い人、痛みがある人、床に座ることが難しい人もいます。そのため、全員に同じポーズを求めるのではなく、椅子に座ったままできる動きや、無理のない範囲を選べるようにすることが大切です。
スイミングは効果が期待されても職場導入には工夫が必要
スイミングは、水の浮力やリズムのある動きによって、気分転換や身体のリラックスにつながる可能性があります。
一方で、職場の健康経営施策としては、プール施設、移動時間、着替え、費用、衛生管理などの課題があります。
そのため、企業研修で直接スイミングを導入するよりも、「リズムのある軽い運動」「呼吸を整える動き」「水中運動に近い低負荷の身体活動」など、職場で使いやすい形に置き換えて考えると現実的です。
フェンシングのような競技型運動は人を選ぶ
フェンシングのような競技型の運動は、集中力や反応の速さを使います。
競技が好きな人には、よい刺激や達成感になることがあります。
しかし、競争が苦手な人、失敗を気にしやすい人、体力に不安がある人にとっては、かえって緊張や不安が強くなることもあります。
職場で運動を取り入れる場合は、競争性の強い活動をメインにしすぎないほうが安全です。
社員同士を比べる運動よりも、自分の体調に合わせて選べる運動のほうが、健康経営には向いています。
運動はユーストレスになる場合がある
運動は、心や体に一定の負荷をかけます。
その負荷が本人に合っていて、終わったあとに気分転換、達成感、回復感がある場合、ユーストレスとして考えることができます。
ユーストレスとは、成長や前向きな行動につながる良いストレスです。
ただし、運動が強すぎる、参加を強制される、体力差が配慮されない、競争が強すぎる場合は、ディストレスになることがあります。
つまり、職場で大切なのは「運動を入れること」だけではありません。
社員が安心して参加でき、無理なく続けられる形にすることです。
ユーストレスの意味やディストレスとの違いについては、ユーストレスとは|職場での活用と科学的エビデンス解説で詳しく整理しています。
人事総務・健康経営担当者が確認したいこと
職場で運動を取り入れるとき、人事総務・健康経営担当者は、次の点を確認するとよいでしょう。
- 運動が苦手な社員も参加しやすい内容か
- 強度を選べるようになっているか
- 競争や順位づけが強くなりすぎていないか
- 体力差、年齢差、持病、痛みへの配慮があるか
- 短時間でも取り入れられるか
- 参加しない社員が責められる雰囲気になっていないか
健康経営の目的は、社員に運動を強制することではありません。
社員が自分の体調に気づき、自分に合った回復方法を選べるようにすることです。
職場で使いやすい運動の考え方
この研究から学べるのは、運動の種類を選ぶ視点です。
職場では、次のような条件を満たす運動が使いやすくなります。
- 短時間でできる
- 強度を選べる
- 競争しなくてよい
- やり方が分かりやすい
- 呼吸やリズムを整えやすい
- 終わったあとに疲れすぎない
たとえば、椅子に座ったままのストレッチ、立ったままできる肩回し、昼休みの自由参加ウォーキング、研修中の短い呼吸法などは、職場に入れやすい方法です。
運動の目的は、社員を鍛えることではありません。
気分を切り替え、心と体を立て直しやすくすることです。
まとめ|運動の種類によって、気分への影響は変わる
BergerとOwenの研究は、運動の種類によって、ストレス軽減や気分向上の出方が変わる可能性を示しています。
運動は、すべて同じではありません。
ハタヨガのように、呼吸やゆっくりした動きを含む運動は、職場でも取り入れやすい方法です。一方で、競争性が強い運動や強度の高い運動は、人によって負担になる場合があります。
職場の健康経営では、「運動すればよい」と考えるのではなく、社員が安心して参加できる運動を選ぶことが大切です。
けんこう総研では、ユーストレスとディストレスの考え方をもとに、社員のセルフケア、管理職の声かけ、ストレスチェック後の職場改善につながるストレス管理研修を行っています。
参考文献
- Berger, B. G., & Owen, D. R. (1988). Stress Reduction and Mood Enhancement in Four Exercise Modes: Swimming, Body Conditioning, Hatha Yoga, and Fencing. Research Quarterly for Exercise and Sport, 59(2), 148–159.
文責:タニカワ久美子