ストレス管理
ユーストレスを健康経営に活かす方法
健康経営のストレス対策では、「ストレスをできるだけ減らすこと」が目的になりがちです。
もちろん、長時間労働、強い不安、ハラスメント、慢性的な疲労など、心身を消耗させるストレスは早く見つけ、減らす必要があります。
一方で、職場には完全になくせない負荷もあります。新しい仕事への挑戦、昇進、異動、期限のある業務、部下育成、組織変更などです。
こうした負荷は、条件が整っていれば、集中、達成感、学び、成長につながることがあります。
このように、社員をただ疲れさせるのではなく、前向きな行動や成長につながるストレスをユーストレスと呼びます。
この記事では、ユーストレスを健康経営でどう活かすかを、人事総務・管理職向けに整理します。
ユーストレスは、職場の負荷を成長につなげるための考え方です。
健康経営でユーストレスを扱う意味
健康経営でユーストレスを扱う意味は、社員に「もっと前向きに考えましょう」と伝えることではありません。
職場にあるストレスを、次のように分けて見るためです。
| 分類 | 内容 | 健康経営での扱い |
|---|---|---|
| 減らすべきストレス | 過重労働、ハラスメント、孤立、休めない状態 | 早期発見し、職場改善を行う |
| 整えるべきストレス | 新しい役割、適度な責任、挑戦課題 | 支援と回復を整え、成長につなげる |
| 見直すべきストレス | 本人は頑張っているが、疲労や不安が強い状態 | 管理職面談や業務調整で確認する |
健康経営では、不調者を減らすだけでなく、社員が力を発揮しやすい職場をつくることが求められます。
そのためには、ストレスを一律に悪いものとして扱うのではなく、成長につながる負荷と、健康リスクになる負荷を分けて見る必要があります。
ユーストレスとは
ユーストレスとは、成長や前向きな行動につながるストレスです。
ただし、「楽しいストレス」や「我慢すべきストレス」という意味ではありません。
緊張や負荷はあるけれど、本人が「対応できそう」と感じられ、相談できる人がいて、終わった後に回復できる状態で起こりやすいストレスです。
たとえば、次のような場面では、ユーストレスとして働く可能性があります。
- 大事な会議の前に緊張するが、準備に集中できる
- 新しい仕事に不安はあるが、終わった後に自信がつく
- 期限があることで、優先順位を決めやすくなる
- 少し難しい課題に取り組み、成長を感じる
詳しい定義や理論背景は、ユーストレスとは|職場での活用と科学的エビデンス解説で整理しています。
ユーストレスとディストレスの違い
ユーストレスと対になる言葉に、ディストレスがあります。
ディストレスとは、心身を消耗させ、不調や意欲低下につながるストレスです。
| 項目 | ユーストレス | ディストレス |
|---|---|---|
| 本人の感覚 | 大変だが、取り組めそう | どうにもならない、逃げ場がない |
| 職場条件 | 目標、支援、裁量、回復がある | 支援不足、過重負荷、慢性化がある |
| 行動 | 準備、相談、学習、集中につながる | 回避、ミス、孤立、意欲低下につながる |
| 結果 | 達成感、成長実感、自己効力感 | 疲労、不眠、不安、休職・離職リスク |
同じ出来事でも、ユーストレスにもディストレスにもなります。
新しい仕事を任されることは、ある社員にとっては成長機会です。しかし、業務量が多すぎる、相談先がない、評価への不安が強い、休む時間がない場合は、同じ出来事が大きな負担になります。
つまり、ストレスの良し悪しは、出来事そのものだけで決まりません。
本人の経験、体調、裁量、支援、休息できる環境によって変わります。
健康経営でユーストレスが必要になる理由
健康経営では、ストレスチェック、メンタルヘルス研修、ラインケア研修、働き方改革などが行われます。
しかし、施策が「不調者を出さないこと」だけに偏ると、職場の成長課題が見えにくくなります。
実際の人事総務の現場では、次のような悩みが起こりやすくなります。
- ストレスチェックは実施しているが、職場改善につながりにくい
- 管理職が、部下の不調サインに気づくのが遅い
- 若手社員が、少しの負荷でも強い不安を感じやすい
- 一方で、成長に必要な挑戦まで避けられてしまう
- 「ストレスを減らす」だけでは、職場の活力が上がらない
このような状況では、ストレスをすべて悪いものとして扱うだけでは不十分です。
減らすべきストレスと、支援を整えながら活かすべきストレスを分ける視点が必要です。
ユーストレスを職場で活かす条件
ユーストレスは、社員に負荷をかければ自然に生まれるものではありません。
職場でユーストレスとして働かせるには、次の条件が必要です。
1. 目標が明確である
何を目指せばよいのかわからないまま忙しくなると、ストレスは不安に変わります。
目標、期限、優先順位、期待されている役割が明確であれば、社員は自分の行動を整理しやすくなります。
2. 相談できる人がいる
同じ業務量でも、相談できる上司や同僚がいるかどうかで、ストレスの感じ方は大きく変わります。
特に、初めての業務、異動直後、昇進直後、繁忙期には、相談しやすい環境が重要です。
3. 本人に裁量がある
責任だけが大きく、やり方を自分で工夫できない状態では、ストレスは重くなります。
仕事の進め方、優先順位、相談のタイミングなどに一定の裁量があると、社員は負荷を扱いやすくなります。
4. 休息と回復がある
短期的な緊張は、必ずしも悪いものではありません。
しかし、緊張が続き、睡眠や休日でも回復できない状態になると、ディストレスに変わります。
人事総務は、残業時間だけでなく、疲労感、表情、ミスの増加、相談の減少も合わせて見る必要があります。
人事総務が見落としやすい注意点
ユーストレスを健康経営で扱うとき、最も注意したいのは、挑戦や成長という言葉で過重な負荷を正当化しないことです。
責任感の強い社員ほど、周囲に迷惑をかけないように頑張りすぎることがあります。
管理職や中堅社員、対人支援の多い職場では、表面上は落ち着いて見えても、内側では疲労がたまっていることがあります。
次のような変化がある場合は、ユーストレスではなくディストレスに近づいている可能性があります。
- 以前より表情が硬くなった
- 小さなミスや確認漏れが増えた
- 相談や雑談が減った
- 睡眠不足や疲労感を口にするようになった
- 急に「大丈夫です」「問題ありません」と言うことが増えた
- 期限前に極端に焦る、または仕事を先延ばしする
職場のストレス対策では、本人の努力だけに任せないことが大切です。
人事総務、管理職、産業保健スタッフが、同じ視点で社員の状態を見られるようにしておく必要があります。
ストレスチェック後に活かす視点
健康経営でユーストレスを活かすには、ストレスチェックの結果を「高ストレス者の確認」だけで終わらせないことが重要です。
次のような視点で職場を見直します。
- どの部署で負荷が高くなっているか
- その負荷は一時的か、慢性的か
- 管理職は部下の状態を把握できているか
- 相談しやすい雰囲気があるか
- 挑戦が成長につながる支援体制になっているか
- ストレスチェック後の職場改善が毎年同じ内容になっていないか
ユーストレスの考え方を取り入れると、健康経営は「不調者を減らす対策」だけではなく、「社員が力を発揮しやすい職場づくり」へ広がります。
管理職研修で扱うべき理由
ユーストレスとディストレスの違いは、資料を読んだだけでは現場に定着しにくいテーマです。
特に管理職には、次の判断が求められます。
- 部下にとって必要な挑戦なのか、過重な負担なのかを見分ける
- 「頑張れ」と励ます場面と、負荷を調整する場面を分ける
- 不調のサインを早めに把握する
- 面談で、本人の受け止め方や不安を確認する
- 職場全体の負荷と支援のバランスを見る
管理職がこの視点を持たないまま「期待しているから」「成長のためだから」と負荷をかけ続けると、本人の状態を見誤る可能性があります。
一方で、すべての負荷を避けるだけでは、社員の成長機会も失われます。
管理職研修では、負荷をなくすのではなく、負荷をどう設計し、どう支援し、いつ調整するかを学ぶ必要があります。
従業員向け研修での活用
従業員向け研修では、自分のストレスを「悪いもの」と決めつけるのではなく、今の負荷が成長につながっているのか、消耗につながっているのかを振り返る視点が必要です。
同じ緊張でも、目標が明確で、相談できる相手がいて、休息が取れている場合は、前向きな行動につながりやすくなります。
一方で、何を求められているのかわからない、相談できない、休めない、失敗が許されないと感じる状態では、ストレスはディストレスに変わりやすくなります。
この視点があると、ストレス対策は単なる注意喚起ではなく、自分の働き方を整える学びになります。
よくある質問
ユーストレスは、良いストレスという意味ですか?
はい。ただし、「楽しいストレス」という意味ではありません。緊張や負荷があっても、本人の成長、集中、達成感、行動の改善につながるストレスをユーストレスと呼びます。
ユーストレスなら、社員に負荷をかけてもよいのですか?
いいえ。ユーストレスは、負荷と支援のバランスが取れているときに成り立ちます。負荷だけを増やすと、ディストレスになり、疲労や不調につながる可能性があります。
人事総務は、何から取り組めばよいですか?
まず、ストレスチェック後の対応を「高ストレス者対応」だけで終わらせず、職場ごとの負荷、支援、相談体制、管理職の関わり方を見直すことが大切です。
健康経営とユーストレスはどう関係しますか?
健康経営では、社員の不調を防ぐだけでなく、力を発揮しやすい職場をつくることが求められます。ユーストレスの視点を入れることで、成長につながる負荷と健康リスクになる負荷を分けて見られるようになります。
まとめ|ユーストレスは健康経営で設計するもの
ユーストレスとは、成長や前向きな行動につながるストレスです。
適度な緊張や責任感は、集中力、達成感、自信につながることがあります。
ただし、ユーストレスは単に負荷を増やせば生まれるものではありません。
目標の明確さ、相談できる環境、本人の裁量、休息と回復の機会があって初めて、負荷は成長につながりやすくなります。
企業の健康経営では、ストレスを減らすだけでなく、どの負荷を減らすべきか、どの負荷を支援によって成長機会に変えられるかを見分けることが重要です。
人事総務・管理職がユーストレスとディストレスの違いを理解することで、ストレスチェック後の職場改善、管理職面談、人材育成、従業員のセルフケアをより実務に活かしやすくなります。
職場のストレス管理研修への活用
けんこう総研では、企業・介護施設・教育機関向けに、ユーストレスとディストレスの違い、ストレスチェック後の職場改善、管理職ラインケア、従業員向けセルフケアを含めたストレスマネジメント研修を行っています。
ストレスを単に「減らすもの」として扱うのではなく、社員の成長を支える負荷と、健康リスクになる負荷を見分けることで、職場改善の方向性が明確になります。
自社のストレスチェック後対応、管理職研修、健康経営施策を見直したい場合は、以下のページをご覧ください。
参考資料
- Selye, H. (1974). Stress without distress. New York: Lippincott.
- Le Fevre, M., Matheny, J., & Kolt, G. S. (2003). Eustress, distress, and their interpretation in occupational stress. Journal of Managerial Psychology, 18(7), 726–744.
- Lazarus, R. S., & Folkman, S. (1984). Stress, Appraisal, and Coping. Springer.
文責:タニカワ久美子