ストレス科学ラボ・用語バンク
深夜残業 ランナーズハイ 健康リスク【人事が今すぐ取る対策】
教育機関・企業の現場では、デスクワークと準備作業が深夜まで続き、一時的な高揚感で「まだいける」と感じることがあります。
しかしこの“頑張れている感”は、脳内麻薬様物質の作用による一過性の現象であり、翌日以降のパフォーマンス低下や健康障害の前兆です。
本稿では、深夜残業時に起きる“ランナーズハイ現象”と健康リスク、そして人事・総務部門が今すぐ取れる対策を解説します。
“ランナーズハイ現象”とは
強い疲労やストレス下で、脳内でエンドルフィンなどのオピオイド様物質が分泌され、一時的な高揚感や痛みの軽減が起こる現象です。
運動時だけでなく、過重労働時のストレス負荷でも類似の反応がみられます。
高揚感は一過性であり、回復を早めるものではありません。
深夜残業で起きる理由
長時間の集中と締切ストレスが続くと、交感神経優位が持続し、痛み・疲労感が抑制されます。
主観的には「冴えている」ように感じますが、身体はエネルギー枯渇に向かっています。
そのため、翌日以降に疲労感の反跳、注意力低下、判断ミスが顕在化します。
健康リスクと業務影響
睡眠不足とメンタル不調
睡眠時間の短縮は回復を阻害し、慢性疲労、抑うつ・不安、意欲低下を招きます。
メンタルヘルス不調は業務品質のムラや欠勤・離職の増加につながります。
ヒューマンエラーと事故リスク
- 高揚の反動で注意散漫
- 反応遅延が生じ、
- 入力ミス
- 設計ミス
- 交通・作業事故
の確率が上昇します。
教育現場では - 授業準備
- 評価作業の品質低下として表れます。
生産性のダウンと医療費の増大
深夜の残業時間は出力に比例せず、翌日のパフォーマンスを下げます。
結果として総合生産性は低下し、体調不良の受診増で医療費が嵩む可能性があります。
現場で見逃しやすい“兆候”チェック
- 深夜帯に気分が妙に高揚し、翌朝の強いだるさが常態化している
- 深夜の作業量は多いが、翌日のやり直し・差し戻しが増えている
- 睡眠時間が5~6時間未満の日が週に3日以上ある
- 集中維持が30分未満に短縮し、こまぎれタスクが増えている
御社でも上記の兆候が複数当てはまる場合、ストレスマネジメントの早期介入で「短期的な頑張りが翌日の負債になる」状態を止められます。
人事・総務が今すぐ取れる実務対策
1. 時間帯ルールの明確化と可視化
深夜作業の事前承認ルールと上限時間を明文化し、部署別の深夜稼働率をダッシュボード化。週次で部門長にフィードバックします。
2. タスク設計:締切前倒しと“翌朝シフト”
高認知負荷の作業は深夜帯ではなく翌朝へ。締切の内部マイルストンを前倒しし、深夜に残る作業は点検・出力だけに限定します。
3. 管理職の声かけと休息の仕組み
「今日はここで切ろう」「明日の朝に仕上げ直そう」という合図をマネジャーが出す運用を標準化。積極的休息(短時間仮眠・軽運動・画面休止)を制度化します。
4. 研修:ストレス反応の理解とセルフモニタリング
エンドルフィンによる一時的高揚が回復を意味しないこと、主観と客観(睡眠・集中指標)のギャップを測る方法を教育。管理職向け・一般社員向けの二層で実施します。
けんこう総研の研修で得られる効果
- 深夜稼働率・エラー率・翌日やり直し率の低減(KPIを3か月で可視化)
- 健康経営優良法人の加点項目に資する体制整備
- 管理職の声かけスクリプト整備と現場運用の定着
“深夜に頑張れてしまう”状態を、明日から変えませんか?
御社の業種・勤務実態に合わせて、無理のない導入手順とKPI設計をご提案します。
参考と補足
本記事は、脳内オピオイド様物質による一過性高揚と業務影響の知見をもとに、教育・企業現場での実装に焦点を当てた解説です。詳細な文献や指標設計はご相談時に共有可能です。
この記事を読んだ方によくある質問
Q1. 深夜残業を完全にゼロにできない部署でも効果はありますか?
はい。完全ゼロを目標にせず、「高負荷タスクは翌朝へ」「深夜は点検のみ」などの運用で、やり直し率とエラー率の低減が期待できます。
Q2. 研修だけで現場は変わりますか?
研修はスタート地点です。管理職の声かけスクリプト、ダッシュボードによる可視化、週次レビューを組み合わせると定着します。
Q3. 測るべきKPIは何ですか?
深夜稼働率、翌日のやり直し率、インシデント件数、平均睡眠時間(任意アンケート)など、3か月で可視化できる指標から始めます。
Q4. 無料相談では何を話しますか?
現状の残業実態、繁忙パターン、既存ルール、対象部門、導入の優先順位を15分で整理し、残り15分で導入プランとKPI案をご提示します。
参考文献
- Boecker H, et al. “The Runner’s High: Opioidergic Mechanisms in the Human Brain”, Cerebral Cortex, 18(11):2523–2531, 2008.
- Shin LM, Liberzon I. “The neurocircuitry of fear, stress, and anxiety disorders”, Neuropsychopharmacology. 35(1):169-191, 2010.
- 厚生労働省『働く人のメンタルヘルス対策』