ウェアラブル・HRV・ストレス計測|健康経営のKPI・行動変容
健康経営で運動施策を検討するとき、「運動を続けると社員の回復状態は変わるのか」「HRVを効果測定に使えるのか」と考える人事総務・健康経営担当者は少なくありません。
研究では、継続的な運動トレーニングによって、一部のHRV指標が改善する可能性が示されています。ただし、HRVが高くなったかどうかだけで、運動施策の成功・失敗を判断することはできません。
HRVは、睡眠、疲労、体調、年齢、身体活動、飲酒、測定方法など複数の要因でも変化します。また、一回の運動直後のHRVと、数週間・数か月続けた運動習慣による変化は分けて考える必要があります。
人事総務が見るのは「運動でHRVを上げること」ではなく、社員が無理なく身体活動を続け、疲労や回復に気づき、職場で続けられる行動へ変わったかです。
運動習慣とHRVには関係があるが、HRVだけで効果判定しない
HRV(心拍変動)は、心拍と心拍の間隔がどの程度変動しているかを表す指標です。心臓に対する自律神経調節を考える手がかりの一つとして研究されています。
継続的な運動トレーニングについては、RMSSD、SDNN、HFなど一部のHRV指標が改善した研究が報告されています。
一方で、その変化の大きさは、年齢、健康状態、運動内容、実施期間、測定方法などによって異なります。
| 研究から考えられること | 職場でそのまま判断できないこと |
|---|---|
| 継続的な運動とHRV指標の変化に関連がみられることがある | HRVが高い社員ほど健康である |
| 運動介入後に一部HRV指標が変化することがある | HRVが上がれば運動施策が成功した |
| 身体活動と心臓の自律神経調節との関連を検討できる | 低いHRVの原因が運動不足である |
研究で関連が示されていることと、一人の社員のHRVから運動習慣や健康状態を判定できることは別です。
一回の運動と「運動習慣」を分けて考える
健康経営では、「研修で軽い運動をしたらHRVがどう変わったか」と、「数週間・数か月にわたって運動を続けた人のHRVがどう変わったか」を混同しないことが重要です。
運動中や運動直後には、身体へ負荷がかかるためHRVが一時的に低下することがあります。特に運動強度が高い場合、回復に時間がかかることもあります。
したがって、運動直後のHRVだけを見て、
- HRVが下がったから運動は逆効果だった
- HRVが上がったから研修効果があった
とは判断しません。
ポイントは、一回の運動反応ではなく、運動を続ける習慣と長期的な回復傾向の関係です。
一回の運動介入そのものの効果測定については、運動介入を扱う専用記事で確認します。
運動習慣を比較する前に、何を「続いている」とするか決める
「運動習慣がある社員」と「ない社員」を比較するときは、運動習慣の定義が曖昧なままでは判断できません。
人事総務が確認したいのは、単に「運動していますか」という回答だけではなく、どのような行動がどの程度続いているかです。
| 確認すること | 見る内容 |
|---|---|
| 頻度 | 週にどの程度身体を動かしているか |
| 継続期間 | 一時的ではなく一定期間続いているか |
| 強度 | 軽い活動か高強度運動か |
| 種類 | 歩行、ストレッチ、有酸素運動、筋力運動など |
| 仕事中の活動 | 座位中心か、身体活動が多い職種か |
たとえば、業務で一日中身体を動かす社員と、デスクワーク後に週数回ウォーキングする社員では、「運動量」という同じ言葉でも状況が違います。
運動習慣をHRVと比較するなら、何を運動習慣として扱ったのかを先に決めます。
HRVを見るなら、運動習慣以外の条件も確認する
HRVが違っていても、その差が運動習慣だけによるものとは限りません。
| HRVに関係する条件 | 人事総務が確認したいこと |
|---|---|
| 睡眠 | 睡眠不足が続いていないか |
| 疲労・体調 | 測定日の体調や疲労が大きく違わないか |
| 測定時間 | 同じような時間帯・条件で比較しているか |
| 身体活動 | 運動直後と安静時を混在させていないか |
| 勤務負荷 | 繁忙期や残業など仕事の条件が違わないか |
| 個人差 | 年齢や健康状態などを無視して他人同士を比べていないか |
HRVの測定条件をそろえる方法については、ストレス測定の条件設計|数値比較で失敗しない判断軸で詳しく整理しています。
運動習慣とHRVを比較する前に、「そもそも比較できる条件のデータか」を確認します。
健康経営ではHRVより先に「続けられた行動」を見る
健康経営で運動施策を実施すると、歩数、参加人数、HRVなど数字を追いたくなります。
しかし、運動習慣をつくる施策では、最初に見るべきなのは社員が実際に続けられた行動です。
| 見るもの | 確認したい変化 |
|---|---|
| 身体活動 | 仕事中に立つ、歩く、身体を動かす機会が増えたか |
| 休憩 | 座り続けず短い休憩を取れるようになったか |
| セルフケア | 自分に合う軽い運動を選べたか |
| 継続 | 研修当日だけでなく一定期間続けられたか |
| 体感 | 疲労感、身体のこわばり、気分などに変化を感じたか |
| HRV | 条件をそろえたうえで長期的な傾向を見る補助情報 |
HRVは成果KPIの頂点ではなく、「その行動を続けたとき身体側ではどのような変化がみられたか」を考える補助情報として位置づけます。
運動施策を実施した後、歩数やHRVだけで成果を判断してよいか迷っているご担当者へ
参加率だけでなく、継続した行動、本人の体感、管理職や職場の支援、測定データまで含めて健康経営KPIを整理するための設計シートです。
運動施策を比較するときは「運動量」だけで選ばない
ウォーキングイベント、動画運動、ストレッチ研修、フィットネス施策など、企業向けの運動施策には複数の選択肢があります。
人事総務が比較するときは、「一番運動量が多い施策」を選ぶのではなく、社員が勤務の中で続けられるかを確認します。
| 比較項目 | 確認すること |
|---|---|
| 対象者 | 運動が得意な社員だけの施策になっていないか |
| 実施時間 | 勤務の中で無理なく実行できるか |
| 強度 | 年齢・体力差に対応できるか |
| 継続方法 | イベント終了後も社員自身で続けられるか |
| 職場支援 | 休憩や身体活動を実行しやすい環境があるか |
| 効果確認 | 参加人数だけでなく行動変化を確認できるか |
企業の運動施策では、「どれだけ動かしたか」より、「社員がその後も続けられる行動を残せるか」が比較軸になります。
「運動不足」を社員だけの問題にしない
運動習慣が少ない社員に「もっと運動してください」と伝えるだけでは、健康経営施策になりません。
勤務中に座り続ける必要がある、休憩が取りにくい、残業後には運動する余裕がない、といった職場条件が背景にある場合があります。
| 社員側でできること | 会社側で変えられること |
|---|---|
| 短い時間でも身体を動かす | 休憩を取りやすくする |
| 座位時間を途中で切る | 長時間座り続ける業務運用を見直す |
| 自分に合う活動を選ぶ | 全員に同じ強度を要求しない |
| 疲労時は休息を選ぶ | 運動参加を人事評価と結びつけない |
運動習慣を個人の自己管理能力だけで評価せず、社員が身体を動かせる職場条件を会社側でもつくれるかを確認します。
研修で感じた変化を「その日だけ」で終わらせない
タニカワ久美子の企業研修では、運動が得意な人だけを対象にした運動指導にはしません。
まず、疲労感、肩や背中のこわばり、呼吸のしやすさ、座り続けている時間などを参加者自身に振り返ってもらいます。
そのうえで、椅子に座ったままできる動きや、短時間の軽い運動を実践します。
「肩が少し軽くなった」「呼吸しやすくなった」という体験があっても、その場で終われば運動習慣にはなりません。
| 研修で得た気づき | 社員の次の行動 | 会社側で動かせること |
|---|---|---|
| 座り続けると身体がこわばる | 一定時間で一度立つ | 短い離席を取りやすくする |
| 短時間でも身体が変わる | 数分の運動を仕事中に取り入れる | 実践できるタイミングをつくる |
| 疲労が強い日は無理をしない方がよい | 運動と休息を選び分ける | 一律の運動目標を要求しない |
| 一人では継続しにくい | 続けられる小さな目標を決める | 研修後に振り返る機会を設ける |
研修で「動くと違う」と感じた経験を、翌日以降の社員の行動と職場運用へどう変換できるか。ここまで設計することで、単発の運動研修が健康経営施策になります。
HRVを運動施策の社員評価に使わない
HRVを取得できても、社員ごとのHRVを並べて「運動できている社員」「回復できていない社員」と分類する使い方は避けます。
- HRVの高低で社員を評価しない
- 社員同士を順位付けしない
- 運動参加状況を勤務態度の評価に使わない
- HRV改善を一律の個人目標にしない
- 本人の同意なく上司へ個人データを共有しない
人事総務が見るのは、一人ひとりのHRVスコアではなく、施策によって続けられる行動が増えたか、職場側の支援が変わったかです。
運動習慣とHRVの研究結果は、職場へそのまま当てはめない
近年のランダム化比較試験をまとめたメタ解析では、継続的な運動トレーニングによりRMSSD、SDNN、HFなど一部のHRV指標が改善したことが報告されています。
また、運動の種類によってHRVへの影響が異なる可能性も研究されています。
ただし、研究の対象者、運動強度、実施期間、HRV測定法は研究ごとに異なります。
そのため、自社で同じ変化が起きると前提にするのではなく、
- 社員が実際に続けられたか
- 疲労や睡眠など別の条件はどうだったか
- 同じ条件でHRVを測定できたか
- 働き方や休憩にも変化があったか
を合わせて確認します。
研究エビデンスは「HRVを上げる施策を選ぶため」ではなく、自社で何を観察すべきかを考える材料として使います。
HRV一般の判断と、運動習慣の判断を分ける
HRVとは何か、HRVの高低をどう解釈するか、自律神経についてどこまで推定できるかは、運動施策とは別の判断です。
HRVそのものについて確認したい場合は、HRV一般を所有する専用記事へ進みます。
ここでは、長期的な運動習慣とHRVの関係を、健康経営の回復・行動変化の補助情報としてどう扱うかに絞ります。
運動習慣とHRVは「社員が回復できる働き方」を考えるために使う
継続的な運動とHRVには関連を示す研究がありますが、健康経営の目的は社員のHRVを上げることではありません。
人事総務が見るのは、
- 社員が無理なく身体を動かせるようになったか
- 座り続ける働き方を途中で切れるようになったか
- 自分の疲労に気づき、運動と休息を選べるか
- その行動を一定期間続けられたか
- 職場側が続けやすい環境をつくれたか
です。
HRVを取得する場合は、これらの変化と合わせて、同じ測定条件での長期的な傾向を補助的に確認します。
「HRVを改善する運動」を探すのではなく、「社員が続けられる行動をつくり、その結果として回復状態もどう変わったかを見る」。
これが、運動習慣とHRVを健康経営で扱うときの基本設計です。
運動施策を、イベント参加で終わらせず職場で続く行動に変えたいご担当者へ
けんこう総研では、軽い運動を実施するだけでなく、社員の気づき、継続行動、休憩、職場環境、研修後の効果測定まで含めて健康経営施策を設計しています。
参考文献
- Amekran Y, El Hangouche AJ. Effects of Exercise Training on Heart Rate Variability in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Cureus. 2024;16(6):e62465.
- Yang F, et al. Effect of Exercise Modality on Heart Rate Variability in Adults: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Rev Cardiovasc Med. 2024;25(1):9.
- Quigley KS, Gianaros PJ, Norman GJ, et al. Publication guidelines for human heart rate and heart rate variability studies in psychophysiology-Part 1. Psychophysiology. 2024;61(9):e14604.
- Soares-Miranda L, Sattelmair J, Chaves P, et al. Physical activity and heart rate variability in older adults: the Cardiovascular Health Study. Circulation. 2014;129(21):2100-2110.
HRVは運動習慣や回復状態だけで決まる指標ではありません。健康経営で利用する場合は、社員の評価や疾病の診断には使用せず、測定条件、本人の体感、睡眠、疲労、勤務状況などと合わせて補助的に扱います。
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。
