健康経営戦略・KPI・エビデンス
健康経営の施策を実施していても、その報告が「実施しました」で終わってしまえば、次年度の予算や施策の見直しに活かしにくくなります。
健康診断、ストレスチェック、社員研修、管理職研修、健康情報の発信。取り組みを増やす前に、人事総務・健康経営担当者が確認したいのは、すでに実施した施策を継続するのか、改善するのか、それとも別の支援方法へ切り替えるのかという判断です。
この記事では、健康経営の施策見直しに必要な判断材料と、経営層への報告を次の意思決定につなげる手順を解説します。
健康経営戦略マップの作成方法ではなく、現在の施策をどう扱うかに焦点を当てます。施策の実施結果を振り返り、次年度に何を残し、何を変えるべきかを判断するための記事です。
健康経営が施策止まりになると何が起きるか
健康経営がうまく進まない会社でも、施策そのものは実施されています。健康診断を受け、ストレスチェックを行い、社員研修や管理職研修を開催している。それでも、職場の変化が見えにくいことがあります。
問題は、施策を実施した事実と、その施策によって何が変わったかが、分けて確認されていないことです。
- 健康診断を実施しているが、受診後の適切な対応につながっているか確認できない
- ストレスチェックを行っているが、集団分析の結果を職場改善に活かせていない
- 研修を実施しているが、管理職や社員の行動変化を確認していない
- 相談窓口はあるが、社員が利用方法を理解しているか分からない
- 施策の結果を、経営層へ説明できる形に整理できていない
この状態では、健康経営は「実施している取り組み」にはなっても、次の経営判断を支える材料にはなりません。
重要なのは、施策の数を増やすことではありません。現在の施策が職場でどのように機能しているかを確認し、次に何を変えるかを決めることです。
健康施策を継続・改善・終了に分ける判断基準
健康施策を見直すときは、実施回数や参加率だけで判断しないことが重要です。
継続する理由があるのか、対象者や実施方法を変えるべきなのか、別の施策に切り替えたほうがよいのかを、職場の変化と運用状況から確認します。
| 判断 | 確認する状態 | 次に行うこと |
|---|---|---|
| 継続 | 目的に合った利用や行動変化が確認でき、現場でも無理なく運用できる | 施策を継続し、次回の確認時期と担当者を決める |
| 改善 | 必要な施策だが、参加しにくい、行動につながらないなどの課題がある | 対象者、実施方法、管理職の関わり方、研修後の支援を見直す |
| 終了・置換 | 当初の目的が変わった、または別の支援方法のほうが現在の課題に適している | 任意施策の終了や別施策への切り替えを検討し、必要な支援が途切れないようにする |
ここでいう「終了・置換」は、企業が任意に実施している追加的な健康施策を対象とします。法令上必要な健康診断やストレスチェックなどの実施義務をなくすという意味ではありません。
また、数値が改善しなかったという理由だけで、施策を終了させることも適切ではありません。
対象者の状況、施策の実施期間、職場環境、管理職の関わり方、社員の声などを合わせて確認します。判断材料が不足している場合は、すぐに終了を決めず、確認方法や実施条件を改善する選択肢も必要です。
継続・改善・終了の判断は、社員個人の健康状態を評価するためではなく、会社が実施する施策の妥当性を見直すために行います。
健康経営KPI・施策評価設計シートで見直し内容を整理する
現在の施策を継続するか、改善するかを考える際には、実施結果だけでなく、何を変えるために実施した施策なのかを整理する必要があります。
けんこう総研の「健康経営KPI・施策評価設計シート」を使い、経営課題、施策、確認する変化、次の判断を整理してください。
施策の実施報告を、次年度の計画や経営層への説明につなげるための検討材料として活用できます。
健康施策を経営判断に使うための確認事項
けんこう総研では、健康経営を施策の数だけで評価しません。
大切なのは、社員の健康を守るための取り組みが職場で機能しているか、そして会社としてどのような支援や職場改善を行う必要があるかを判断できることです。
社員の健康と職場環境は、欠勤、休職、集中力、仕事上のミス、離職などとも関係します。ただし、健康施策を実施したからといって、それらの指標が直ちに改善するとは限りません。
そのため、実施の有無と、施策が職場に届いているかを分けて確認します。
| 施策として見る場合 | 経営判断として見る場合 |
|---|---|
| 健康診断を実施したか | 受診後の適切な受診勧奨や支援体制が機能しているか |
| ストレスチェックを行ったか | 集団分析から職場の負担や改善課題を検討できているか |
| 研修を開催したか | 社員や管理職の行動に変化が見られるか |
| 相談窓口を設置したか | 社員が相談方法を理解し、安心して利用できる環境があるか |
| 健康関連制度を整えたか | 制度が利用しやすく、必要に応じて改善されているか |
健康経営を経営判断として扱うと、施策を実施したかどうかだけでなく、職場に届いているか、運用上の障害は何か、次にどこを改善すべきかが見えてきます。
なお、健康診断結果やストレスチェックの個人結果を、人事総務が自由に閲覧・比較してよいわけではありません。個人情報の保護と法令上の取り扱いを守り、必要に応じて産業医などの産業保健スタッフと連携することが前提です。
健康施策の見直し判断が止まる理由
健康施策の見直しが進まない背景には、担当者の努力だけでは解決できない運用上の課題があります。
- 施策ごとの目的があいまいになっている
- 参加率や実施回数だけで成果を報告している
- 研修後の行動変化を確認する仕組みがない
- 管理職が職場でどう関わればよいか分からない
- 人事総務の担当者だけが推進を抱えている
- 経営層へ改善提案を行うための判断材料が不足している
たとえば、研修を毎年開催していても、参加者の満足度だけを確認している場合、研修内容を継続すべきか、実施方法を変えるべきかは判断しにくくなります。
また、相談窓口の利用が少ない場合も、単純に「需要がない」とは判断できません。
窓口の存在が知られていない、相談内容が分かりにくい、利用することへの不安があるなど、複数の理由が考えられます。
結果が出ていないように見えるときほど、施策の必要性と運用方法を分けて考えることが重要です。
健康経営を経営判断に変える3つの視点
健康施策の実施結果を次の判断につなげるためには、次の3つの視点が必要です。
1. 健康情報を職場の状態として見る
健康診断やストレスチェックなどの情報は、適切な取り扱いの範囲内で、職場環境を見直す手がかりになります。
たとえば、長時間労働、休憩の取りにくさ、相談しにくさ、業務負荷の偏りなどは、健康施策だけでなく、日常の職場運営とも関係します。
ただし、個人の健康状態を人事評価や能力判定に使用してはいけません。
職場改善の検討では、法令や同意条件に従って取り扱える集団データや、従業員アンケート、勤務状況、現場の意見などを活用します。少人数の集計で個人が推測される場合は、集計単位や公表方法にも配慮が必要です。
個人を評価するためではなく、職場環境として何を改善できるかを考えることが目的です。
2. 経営課題と結びつける
健康施策を見直す際には、その施策が会社のどの課題に対応しているかを確認します。
欠勤、休職、離職、事故、仕事上のミス、管理職の負担など、経営上の課題と関連づけて検討することで、施策を継続する理由や改善すべき点を説明しやすくなります。
たとえば、離職が続いている職場では、社員研修を追加する前に、業務負荷や相談体制、管理職への支援が十分かを確認する必要があります。
経営課題、健康課題、施策、KPI、成果指標の関係を図で整理したい場合は、関連記事
健康経営戦略マップの作り方|KPI具体例と施策評価のつなげ方
で具体的な設計方法を解説しています。
本記事では戦略マップの作成手順を繰り返すのではなく、すでに実施している施策を次にどう扱うかという判断に焦点を当てます。
3. 実施後に見直す
健康施策は、一度導入して終わるものではありません。
研修、ストレスチェック、相談窓口の周知などを実施した後に、職場で何が変わったか、何が変わっていないかを確認します。
- 社員が相談方法を理解し、相談しやすい環境になったか
- 管理職が適切な声かけや業務調整を行いやすくなったか
- 不調のサインに気づいたとき、専門職や相談窓口へつなぐ体制が機能しているか
- 研修で学んだ内容が職場の行動に活かされているか
- 次に見直すべき施策や運用上の課題が明確になったか
一度の調査結果だけで施策の効果を断定せず、実施前の状況、時間の経過、職場環境の変化も考慮します。
この確認によって、施策を継続する理由と、改善する必要がある部分を分けて説明しやすくなります。
施策を増やす前に確認したいこと
健康経営が進まないとき、新しい研修や制度を追加したくなることがあります。
しかし、施策を増やす前に、現在の取り組みが使われているか、運用上の課題がないかを確認することが先です。
| 確認すること | 見るポイント | 次に考えること |
|---|---|---|
| 健康診断後の対応 | 適切な受診勧奨や産業保健スタッフとの連携体制があるか | 本人のプライバシーを守りながら支援の流れを見直す |
| ストレスチェック後の対応 | 集団分析の結果を職場改善の検討に活かせているか | 管理職支援や業務負荷の見直しにつなげる |
| 研修後の変化 | 受講者の行動や職場での会話が変わったか | 研修後フォローや実践機会を設ける |
| 相談窓口の使われ方 | 社員が相談できる内容と利用方法を理解しているか | 周知方法や相談しやすい環境を見直す |
| 人事総務の負担 | 担当者だけが施策運用を抱えていないか | 管理職、産業保健スタッフ、外部支援との役割を整理する |
この表を使って現在の施策を確認すると、必ずしも新しい施策が必要とは限らないことが分かります。
たとえば、研修内容に大きな問題がなくても、研修後の実践機会が不足していれば、改善すべきなのは研修そのものではなく、職場でのフォロー体制かもしれません。
健康経営では、施策の追加と同じくらい、既存施策の運用改善が重要です。
タニカワ久美子が企業研修で見ている健康経営のつまずき
タニカワ久美子の企業研修では、人事総務の担当者から「健康経営に取り組んでいるのに、社員に伝わっていない」という相談を受けることがあります。
制度や研修は整っていても、社員からは「自分に関係がある取り組みだと思えない」という声が出ることがあります。
また、管理職からは「部下の健康に関わる話を、どこまで職場で話せばよいのか分からない」という声も聞きます。
このような場合、新しい制度や研修を増やす前に、現在の施策が職場でどのように受け止められているかを確認する必要があります。
研修では、健康経営を制度名だけで説明するのではなく、疲れがたまったとき、相談しづらいとき、部下の様子が気になるときに、何を見て、どこにつなげるのかを具体的に扱います。
ストレス管理研修であれば、知識を伝えるだけでなく、呼吸や身体のこわばりに気づくこと、短い休憩や軽運動を日常に取り入れることなど、翌日から実践できる行動へつなげます。
管理職研修では、部下の健康状態を診断するのではなく、業務負荷の調整、声かけ、相談先への接続など、管理職の役割を明確にします。
研修後の評価でも、満足度だけで判断しません。
参加者が何を理解し、どのような行動を試し、職場で何が実行しやすくなったのかを確認します。
こうした変化を振り返ることで、同じ研修を続けるべきか、内容を変えるべきか、研修以外の職場支援が必要なのかを検討できます。
健康施策を継続・改善・終了に振り分ける手順
健康施策の実施結果を経営判断につなげるためには、次の7つの手順で整理します。
- 現在行っている健康施策を書き出す。
健康診断後の支援、ストレスチェック、社員研修、管理職研修、相談窓口など、実施中の施策を一覧にします。 - それぞれの施策の目的を確認する。
何の健康課題や職場課題に対応するための施策なのかを整理します。 - 社員・管理職・人事総務のどこに届いているか確認する。
対象者に周知されているか、利用しやすいか、運用上の負担がないかを見ます。 - 実施後に確認する変化を決める。
参加率だけでなく、相談行動、研修後の実践、管理職の声かけ、業務調整など、施策の目的に合った変化を確認します。 - 現場の意見と運用上の課題を整理する。
社員や管理職の声を踏まえ、施策が使われにくい理由や改善できる部分を確認します。 - 施策を継続・改善・終了(置換)に分類し、その理由と次回の確認時期を記録する。
判断に必要な材料が不足している場合は、確認方法の改善や試行期間の設定も検討します。 - 経営層へ報告し、次年度の健康経営計画に反映する。
実施報告だけでなく、判断の理由、必要な支援、担当者、見直し時期を明確にします。
この手順では、すべての施策に同じ評価基準を当てはめる必要はありません。
たとえば、ストレス管理研修では研修後のセルフケア行動、管理職研修では声かけや業務調整、相談窓口では利用方法の理解や相談しやすい環境など、目的に合った項目を確認します。
また、欠勤や離職などの経営指標は、施策以外の要因からも影響を受けます。短期間の数値変化だけで個別施策の成果を断定しないことが重要です。
経営層への報告では、次に何を判断してほしいかを明確にする
健康経営の実施報告を経営判断につなげるには、施策の実績だけでなく、次に必要な判断を示すことが重要です。
たとえば、社員向けストレス管理研修を実施した場合、報告を「受講者数と満足度」で終わらせるのではなく、次のように整理できます。
| 報告項目 | 経営層に伝える内容の例 |
|---|---|
| 実施した施策 | 社員向けストレス管理研修 |
| 確認した変化 | 研修後に休憩行動やセルフケアの実践状況を確認した |
| 見えてきた課題 | 実践したい社員がいても、職場によって休憩を取りにくい場合がある |
| 次の判断 | 研修継続に加え、管理職への働きかけや休憩環境の改善を検討する |
| 再確認の時期 | 改善策を実施した後、あらかじめ決めた時期に運用状況を確認する |
これは報告内容の一例であり、特定の企業で確認された成果を示すものではありません。
重要なのは、実施したこと、確認できたこと、まだ分からないこと、次に判断してほしいことを分けて伝えることです。
そうすることで、健康経営の報告が単なる活動報告ではなく、必要な支援や施策の見直しを検討する資料になります。
まとめ|健康施策の次の判断を明確にする
健康経営は、健康診断や研修を実施すること自体が目的ではありません。
すでに行っている健康施策が、社員や管理職に届いているか、職場の課題に対応しているか、実施後に何が変わったかを確認し、次の改善につなげることが大切です。
施策を継続する場合も、改善する場合も、別の方法に切り替える場合も、その判断には理由が必要です。
人事総務・健康経営担当者は、実施回数や参加率だけでなく、職場での行動変化、運用状況、管理職の負担、社員の声などを整理し、経営層へ説明できる状態を目指します。
けんこう総研では、健康経営を実施報告で終わらせず、ストレス管理研修、管理職支援、職場改善、研修後フォローアップなどを通じて、施策の実施から見直しまでを支援しています。
現在の健康施策について「何を継続し、何を改善すべきか」を整理したい企業・団体の人事総務、健康経営担当者の方は、けんこう総研の健康経営支援をご確認ください。
すでに研修を実施しており、研修後の行動定着や職場での改善運用を検討している場合は、
健康経営フォローアップ支援
もご覧ください。
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。