ストレス管理
受け入れと逃げの違い|職場ストレス対応で迷う社員の言葉
企業担当者が対応に迷うのは、社員が「もう無理です」「諦めるしかないです」と言ったときではないでしょうか。
励ましたほうがよいのか、休ませたほうがよいのか、それとも本人の気持ちを受け止めるだけでよいのか。人事総務・健康経営担当者にとって、判断が難しい場面です。
ここで大切なのは、「諦める」という言葉をすぐに悪い意味で決めつけないことです。諦めには、問題から目をそらして動けなくなる形もあります。一方で、変えられないことを抱えすぎず、今できる行動に戻るための受け入れもあります。
この記事では、職場のストレス対策で確認したい「受け入れ」と「逃げ」の違いを、人事総務が研修相談前に整理できるようにまとめます。
「もう無理です」をすぐに個人の弱さにしない
社員が「もう無理です」と言ったとき、それをやる気不足や責任感の不足と見るのは危険です。強い疲労、相談しにくさ、業務量の偏り、管理職に言い出せない空気が重なっている場合があります。
本人が本当に投げ出したいのか、それとも限界を知らせようとしているのか。まず見るべきなのは、言葉の強さではなく、その前後にどのような状態が続いていたかです。
受け入れは、現実を見て次の行動に戻ること
受け入れとは、つらい現実をなかったことにしない姿勢です。疲れている、困っている、腹が立っている、今のやり方では続かない。その状態を認めたうえで、今できることを選び直します。
たとえば、すぐに相手の考え方を変えることはできません。過去の出来事を消すこともできません。職場の制度を今日中に変えることも難しい場合があります。
それでも、相談する相手を変える、仕事の優先順位を確認する、休息を取る、上司に調整を依頼することはできます。受け入れは、何もしないことではありません。動ける場所を見つけるための考え方です。
逃げは、問題を見ないまま先送りすること
逃げは、つらさを見ないようにして、その場だけをやり過ごす状態です。「どうせ変わらない」「相談しても無駄」「自分が我慢するしかない」と考え、必要な相談や調整から離れてしまいます。
一時的には楽に見えても、問題が残ったままだと、ミス、欠勤、感情の爆発、急な離職につながることがあります。職場では、社員が黙ったことで解決したと見なさないことが重要です。
一般的な励ましだけでは動かない理由
「前向きに考えよう」「もう少し頑張ろう」という声かけは、タイミングを間違えると逆効果になります。本人がすでに限界を感じているときには、「まだ頑張らないといけない」と受け取られることがあるからです。
必要なのは、励ます前に整理することです。何が変えられないのか、何なら調整できるのか、本人が一人で背負っているものは何かを確認しなければ、言葉だけの支援で終わってしまいます。
専門職でも迷う判断構造
「受け入れ」と「逃げ」は外から見るだけでは区別しにくいものです。本人の発言だけでなく、睡眠、疲労、業務量、相談行動、孤立の有無を合わせて見なければ判断を誤ります。
社内で動かしにくい理由
この支援は、人事総務だけでも管理職だけでも完結しません。声かけ、業務調整、相談先、医療的対応が必要な場合のつなぎ方を、社内で同じ基準にそろえる必要があります。
研修現場で見える「受け入れられない社員」
タニカワ久美子の企業研修では、「諦めるのはよくないことだと思っていました」と話す社員さんがいます。特に責任感の強い方ほど、手放すことを逃げだと感じやすい傾向があります。
管理職の方からは、「部下の相談を全部受け止めないといけないと思っていた」という声も出ます。人事総務の方からは、「相談窓口はあるのに、必要な人ほど来ない」という違和感が語られます。
ここで必要なのは、「諦めましょう」と教えることではありません。社員の反応、管理職の迷い、人事総務の違和感を、職場で使える判断材料に変えることです。
本人が「自分のせい」と思い込んでいるのか。管理職が踏み込みすぎを恐れているのか。人事総務が制度を用意していても、相談してよい目安が伝わっていないのか。この整理がないままでは、受け入れも支援も職場に根づきません。
管理職・人事総務が確認したい場面
声をかけるときは、「諦めないで」と言う前に、「今すぐ変えられないことまで抱えていませんか」「一人で背負っていることはありませんか」「今できることと、今は手放してよいことを分けてみませんか」と確認する方が、社員は話しやすくなります。
医療的な対応が必要な場合
この記事は、職場のストレス管理と不調予防の視点から書いたものです。医学的な診断や治療を行うものではありません。
強い不眠、不安や落ち込み、出勤困難、食欲低下、涙が止まらない、仕事や日常生活への支障が続く場合は、自己判断せず、医療機関や専門職につなぐ必要があります。職場は診断するのではなく、以前との違いに気づき、相談しやすい状態を作ることが役割です。
受け入れと逃げの違いを、職場支援につなげるために
受け入れは、何もしないことではありません。現実を見たうえで、変えられないことを抱えすぎず、今できる行動に戻ることです。
一方で逃げは、問題を見ないまま先送りし、必要な相談や調整から離れてしまう状態です。人事総務・健康経営担当者が確認したいのは、社員が弱いかどうかではなく、その言葉が回復への入口なのか、孤立のサインなのかです。
社員に無理な前向きさを求めず、受け入れと逃げの違いを管理職の声かけや職場支援につなげたい場合は、けんこう総研の企業向けストレスマネジメント研修をご覧ください。
参考文献
- 菅沼慎一郎ほか「精神的健康における適応的諦観の意義と機能」『心理学研究』89巻3号,229-239,2018年
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。