ストレス管理
健康経営の一環として運動をすすめても、社員によって反応が大きく違い、人事総務・健康経営担当者が現場で違和感を持つことがあります。
ある社員は「少し身体を動かすと気分が切り替わる」と言います。一方で、同じ運動でも「息が上がると不安になる」「今日は疲れていて運動する余裕がない」と感じる社員もいます。
この違いは、どちらかが正しい、間違っているという話ではありません。
同じ運動刺激でも、社員のストレスレベル、疲労、睡眠、運動経験、不安の感じやすさによって反応が変わるためです。
この記事では、運動方法そのものではなく、職場の運動施策が社員にとって回復につながっているのか、新しい負担になっているのかを、人事総務・健康経営担当者がどう評価するかを整理します。
運動施策では「実施したか」より社員の反応を見る
運動は身体にとって刺激です。
心拍が上がる、呼吸が変わる、筋肉が動く、汗をかく。こうした反応は、身体が外からの刺激に応答している状態です。
この刺激が本人に合っていれば、気分の切り替えや緊張のゆるみに役立つことがあります。
反対に、疲労が強い社員、睡眠不足の社員、運動に苦手意識がある社員にとっては、同じ取り組みが負担になる場合があります。
職場が見るべきなのは、「運動をしたかどうか」だけではありません。
運動後に社員のストレス反応がどう変化したかを見ることが重要です。

| 運動後の反応 | 考えられる状態 | 職場での見方 |
|---|---|---|
| 気分が軽くなる | 身体の緊張がゆるみ、気分転換になっている | 無理なく続けられる範囲か確認する |
| 不安が強くなる | 心拍や息切れを不安として感じている可能性 | 強度を下げる、別の方法を選べるようにする |
| 疲労感が増える | もともとの疲労が強い可能性 | 運動より休息が合っていないかを見る |
| 人前で動くことが負担 | 実技そのものが心理的ストレスになっている | 座位・見学など選択肢を用意する |
| 特に変化を感じない | 短時間では本人が変化を自覚しにくい | 1回の感想だけで効果を決めない |
同じ運動でも、不安が軽くなる人と負担になる人がいます
短い運動のあとに「気持ちが落ち着いた」と感じる社員もいれば、反対に不安が強くなる社員もいます。
運動に慣れている人は、身体が温まることや心拍数が上がることを、自然な運動反応として受け止めやすいでしょう。
一方で、運動が苦手な人や不安を感じやすい人は、心拍数の上昇や息が上がる感覚そのものを「身体に何か起きている」と不安に感じる場合があります。
また、疲労が強い社員では、身体を動かすより休息の方が適している日もあります。
そのため職場では、運動を「全員に同じ効果が出るストレス対策」として扱わないことが大切です。
社員反応には個人差があることを前提に、本人にとって無理のない刺激かどうかを見ます。
心拍が上がること自体を、不安に感じる社員もいます
運動をすると、心拍が上がり、呼吸が速くなり、体温が上がることがあります。
こうした変化は運動に伴って起こる反応ですが、不安が高い社員や運動に慣れていない社員では、身体の変化そのものを不安として受け取る場合があります。
本人にとっては、「運動をした」というよりも、「心拍が上がって怖かった」という体験になることがあります。
このような社員に「大丈夫だから続けましょう」と求めるだけでは、安心にはつながりません。
研修や職場セルフケアでは、最初から次のような選択肢を伝えておきます。
- 途中で止めてもよい
- 座ったまま参加してよい
- 周囲と同じ動きをしなくてよい
- 息が上がるほど行わなくてよい
- 違和感があれば見学や休息を選んでよい
ここで見るべきなのは、「最後までできたか」ではありません。
社員が自分の身体反応に気づき、無理をしない選択ができたかです。
その場の不安と、続いている不安を分けて考える
不安には、その場の状況によって高まるものと、長く続いているものがあります。
たとえば、発表前、初めての仕事、上司への報告前などに緊張する場合は、その場の状況に反応した不安として見ることができます。
このような一時的な緊張では、短い運動や呼吸によって気分が切り替わる社員もいます。
一方で、日頃から強い不安が続いている、疲労が蓄積している、睡眠不足が続いているという場合には、運動だけで対応しようとしないことが大切です。
その場合は、休息、業務量、相談のしやすさ、管理職の声かけなど、職場環境も合わせて確認します。
ストレスレベルは、一つの数値だけでは判断できません
職場でストレスレベルを確認するとき、「何点なら高ストレスなのか」「どの数値なら運動の効果があったのか」と判断したくなることがあります。
しかし、社員のストレス状態は、一つの数値だけで決めることはできません。
心拍数、呼吸、HRV、唾液アミラーゼ、コルチゾールなどは、身体反応を見る手がかりになります。
一方で、こうした測定値は、睡眠、食事、体調、測定時間、その場の緊張、運動習慣、測定環境などの影響も受けます。
そのため、数値が高いから「ストレスが悪化した」、低いから「改善した」と単純に判断することはできません。
ストレスレベルを見るときは、本人の主観、身体反応、疲労感、職場での行動を合わせて見ることが大切です。
HRVは社員の成績ではなく、反応を見る補助情報です
HRVは、心拍と心拍の間隔のゆらぎを見る指標です。
心身の緊張や回復を考える手がかりの一つとして扱われます。
ただし、職場でHRVを使う場合に大切なのは、社員を評価したり比較したりするための数字にしないことです。
HRVは、年齢、体力、睡眠、疲労、測定環境、運動習慣、その日の体調などによって変わります。
また、運動をすると心拍が上がり、身体は活動する方向へ変化します。そのため、運動直後の数値だけを見て「良い」「悪い」と判断することはできません。
| 見るもの | 分かること | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 本人の感想 | 安心感、緊張、疲労感など | その時の気分だけで変わることがある |
| 心拍・HRVなど | 身体が刺激に反応している手がかり | 体調や測定条件にも左右される |
| 行動 | 職場で実際に使えるか | 研修中だけできても継続とは限らない |
| 疲労感 | 運動が追加負担になっていないか | 気分転換と疲労が同時に起こる場合がある |
HRVなどの数値は、社員を「ストレスに強い」「弱い」と分けるためのものではありません。
本人が自分の身体反応に気づくための補助情報として扱います。
本人の気分と身体反応は、同じ方向に変わるとは限りません
本人が「気分が楽になった」と感じていても、身体の指標には大きな変化が出ないことがあります。
反対に、本人は「特に変わらない」と感じていても、身体では反応が起こっている場合があります。
このため、職場のストレス評価では、本人の感想だけでも、生理的な数値だけでも決めつけません。
「本人はどう感じたか」「疲労が残っていないか」「身体はどう反応したか」「職場で実際に使えそうか」を合わせて見ます。
運動前後のストレス評価では「何が変わったか」を分けて見る
研修や職場施策では、実施後アンケートを取ることがあります。
ここで満足度だけを聞くと、「よかった」「普通だった」という感想で終わってしまいます。
しかし、本当に見たいのは、社員のどの反応が変わったのかです。
| 評価項目 | 見たいこと |
|---|---|
| 不安・緊張 | 運動後に安心感が増えたか、緊張が増えていないか |
| 疲労感 | 気分転換になった一方で疲労が増えていないか |
| 身体感覚 | 肩・呼吸・心拍など、自分の状態に気づけたか |
| 回復 | 運動後に呼吸や心拍が落ち着いているか |
| 実行しやすさ | 職場で自分でも続けられそうか |
| 選択のしやすさ | 動く・軽く動く・休むを選べたか |
人事総務が確認したいのは、平均点が高かったかどうかだけではありません。
誰には合い、誰には負担だったのかまで見ることで、次の研修や施策の調整につながります。
運動後に「落ち着くところまで」を評価する
社員反応を見るときは、運動直後だけで判断しないことも大切です。
不安が高い社員や疲労が強い社員では、身体を動かしたあとも、しばらく心拍や呼吸が気になり、緊張が残る場合があります。
そこで研修では、運動をして終わりではなく、回復するところまで確認します。
- 座ってゆっくり息を吐けるか
- 肩や首の力みがどう変化したか
- 心拍や呼吸が落ち着いてきたか
- 疲労感が強く残っていないか
- 本人が身体の変化を言葉にできるか
運動直後に一時的に身体が活動的になることと、運動後に回復できないことは同じではありません。
刺激を受けたあとに無理なく落ち着けるかまで見ることで、社員にとってその運動が適切だったかを判断しやすくなります。
身体反応の指標は、社員を判定するために使わない
心拍数、HRV、唾液中の反応物質などのデータは、身体が刺激にどう反応しているかを見る参考になります。
ただし、職場で扱う場合は慎重さが必要です。
- 社員の人事評価に使わない
- 社員同士の順位づけに使わない
- 一つの数値だけでメンタルヘルス状態を決めない
- 個人の健康データを安易に共有しない
- 本人の気づきやセルフケアに役立つ範囲で扱う
数値そのものを改善目標にすると、社員は「良い数値を出さなければならない」と感じることがあります。
職場研修で大切なのは、数値を競わせることではなく、社員が「自分はこの刺激にこう反応する」と気づくことです。
タニカワ久美子の研修では、運動ではなく社員反応を見ます
タニカワ久美子の企業研修では、短い身体の動きを取り入れることがあります。
ただし、目的は運動方法を覚えてもらうことではありません。
見ているのは、社員の反応です。
少し動いたあとに呼吸がしやすくなったのか、表情がゆるんだのか、肩の力みに気づいたのか。
反対に、疲労感が強くなったり、心拍の変化を不安に感じたり、人前で動くことに抵抗が出たりしていないかも見ます。
ある研修では、同じ短い動きでも「気分が切り替わった」と話す社員と、「今日は見るだけでよかった」と話す社員がいました。
ここで重要なのは、どちらが正しいかではありません。
同じ刺激でも、社員によって受け止め方が違うこと自体が、職場のストレス評価に必要な情報です。
研修では、「最後までできたこと」だけを成果にしません。
途中で止める、座ったまま行う、今日は休むという判断ができたことも、適切なセルフケア行動として扱います。
運動が本人に合っているかは、強度だけでは決まりません
運動の負担は、運動強度だけで決まるものではありません。
疲労、睡眠、痛み、不安、運動経験、その日の体調によっても変わります。
そのため、職場では「この運動は軽いから全員大丈夫」と考えないことが重要です。
肩こり・腰痛・疲労がある社員にどの程度の運動強度を選ぶかについては、次の記事で詳しく整理しています。
ストレス対策の運動強度はどう選ぶ?肩こり・腰痛を悪化させない職場セルフケア
ユーストレスの説明は全体像ページに任せる
運動による刺激が本人に合っているとき、その刺激が気分転換、回復感、前向きな行動につながる場合があります。
一方で、同じ刺激でも本人の状態に合っていなければ負担になります。
この記事ではユーストレスそのものの定義を主題にはしません。
ここで扱うのは、社員にとってその刺激が回復につながっているのか、負担になっているのかをどう評価するかです。
ユーストレスとディストレスの全体像については、ユーストレス(良性ストレス)とは|職場で活かすストレス資源の全体像で整理しています。
医療的な対応が必要な場合
この記事は、職場のストレス管理と健康経営の視点から書いたものです。医学的な診断や治療を行うものではありません。
運動中や運動後に、強い動悸、息苦しさ、胸痛、めまい、強い不安、強い疲労、痛みなどが続く場合は、自己判断で運動を続けず、医療機関や専門職に相談してください。
職場の役割は診断することではありません。
以前との違いに気づき、無理をさせず、必要な相談先につなぐことです。
ストレスマネジメント研修では、反応を行動変容につなげる
社員の反応を確認しても、その場で終わってしまえば職場の変化にはつながりません。
「肩に力が入っていたことに気づいた」「呼吸が浅くなっていた」「心拍が上がると自分は不安を感じやすい」「今日は運動より休息が必要だと分かった」といった気づきを、日常のセルフケア行動へつなげることが重要です。
人事総務・健康経営担当者にとっても、研修後に何を確認するかをあらかじめ決めておくと、満足度だけではない研修評価ができます。
ストレスマネジメント研修を「受講して終わり」にしないために
社員のストレス反応への気づきを、職場でのセルフケア行動や研修後の変化につなげるための「ストレスマネジメント研修 行動変容設計シート」をご用意しています。
研修前に何を確認し、研修後にどの行動変化を見るかを整理したい人事総務・研修担当者におすすめです。
まとめ|職場の運動施策は、ストレスレベルと社員反応を見ながら判断する
運動は、社員にとって気分転換になることもあれば、負担になることもあります。
重要なのは、「運動は健康によい」と一律に判断することではありません。
同じ運動でも、不安が軽くなる社員もいれば、心拍や呼吸の変化を不安に感じたり、疲労が強くなったりする社員もいます。
また、本人の気分と身体反応が必ず同じように変化するとは限りません。
人事総務・健康経営担当者が見るべきなのは、一つのストレス指標や満足度だけではありません。
本人の感覚、疲労、身体反応、回復のしかた、職場での行動を合わせてストレス評価することが大切です。
けんこう総研では、ストレス反応への気づきを、社員のセルフケアと職場での行動変容につなげる企業向けストレスマネジメント研修を行っています。
参考文献
- Hansen, Å. M., Johnsen, B. H., & Sollers, J. J. Heart rate variability in stress and anxiety. Scandinavian Journal of Public Health. 2004;32(5):35-41.
- Dishman, R. K., Nakamura, Y., Garcia, M. E., et al. The effects of aerobic exercise on anxiety and heart rate variability. Psychosomatic Medicine. 2000;62(6):63-67.
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。