ストレス管理
社員がつらそうに見える時|支援資源で見る職場ストレス管理
企業担当者が現場で違和感を持つのは、社員が以前よりつらそうに見えるのに、本人は「大丈夫です」と言い、周囲も「仕事はできているから様子を見よう」と判断している場面ではないでしょうか。
表情が硬い、休憩を取っていない、睡眠不足が続いていそう、以前より同じ仕事に時間がかかっている。こうした変化があるとき、すぐに「性格の問題」「打たれ弱い人」と見てしまうと、職場で確認すべき点を見落とします。
人事総務・健康経営担当者が見たいのは、「この社員はストレスに弱いのか」ではありません。相談先があるか、休憩を取れているか、眠れているか、業務量や優先順位を上司と相談できる状態にあるかです。
社員のつらさを個人責任にしない
同じ仕事でも、相談できる人がいるかどうかで負担は変わります。休憩を取れるか、睡眠が保てているか、仕事の進め方に少しでも裁量があるかによっても、心身への影響は変わります。
以前は平気だった仕事が、最近は重く感じられることがあります。これは本人の能力が急に下がったという意味ではありません。頼りにしていた先輩の異動、上司の変更、家庭の負担、休憩場所の使いにくさ、睡眠不足などが重なると、同じ業務でも負担は大きくなります。
職場が確認すべきなのは、本人の根性ではありません。相談できない、休めない、眠れていない、仕事量を調整できない状態が続いていないかです。
制度があっても使えなければ支援にならない
相談窓口や休暇制度があっても、社員が実際に使えていないことがあります。休める制度はあるのに、周囲に迷惑をかけると思って休めない。相談窓口はあるのに、何を話せばよいか分からない。上司はいるのに、評価を気にして本音を言えない。
この状態では、制度は存在していても、社員の不調予防にはつながりにくくなります。人事総務が確認したいのは、制度の有無ではなく、社員が安心して使える状態になっているかです。
一般的なストレス対策だけでは動かない理由
「ストレスがあれば相談してください」「休めるときは休んでください」と伝えるだけでは、必要な社員ほど動けないことがあります。本人が「この程度で相談してはいけない」「自分が我慢すれば済む」と思っている場合、相談や休憩は選択肢に入りません。
また、管理職も迷います。どこまで聞いてよいのか、業務量に踏み込んでよいのか、家庭や睡眠の話をしてよいのか判断しにくいからです。ここが社内で止まりやすい部分です。
専門職でも迷う判断構造
社員の不調は、本人の性格、業務量、相談しにくさ、睡眠、家庭事情が重なって見えます。どれか一つだけを原因にせず、職場で調整できる要素を切り分ける必要があります。
社内で動かす難しさ
相談先、休憩、業務量調整、産業保健へのつなぎ方は、人事総務だけでも管理職だけでも整いません。誰がどの段階で声をかけ、何を判断材料にするかを社内でそろえる必要があります。
タニカワ久美子の研修では現場の違和感を判断材料に変える
タニカワ久美子の企業研修では、社員から「以前は平気だったのに、最近は同じ仕事がつらく感じます」という声が出ることがあります。その方が急に弱くなったわけではありません。
話を聞くと、頼りにしていた先輩が異動した、家庭の介護が始まった、休憩時間に落ち着ける場所がなくなった、上司が忙しそうで相談しづらくなったなど、小さな変化が重なっていることがあります。
管理職の方からは、「本人が弱くなったのか、仕事量の問題なのか分からなかった」という迷いが出ます。人事総務の方からは、「制度はあるのに、必要な人ほど使っていない」という違和感が語られます。
研修で扱うのは、社員に「もっと強くなりましょう」と伝えることではありません。社員の反応、管理職の迷い、人事総務の違和感を、相談先・休憩・睡眠・業務量調整・仕事の裁量という判断材料に変えることです。
この整理がないままでは、声かけは個人対応で終わります。ある管理職は丁寧に聞き、別の管理職は様子見にする。人事総務は制度を案内するが、現場では使われない。このずれが残ると、社員の不調は本人任せになってしまいます。
ストレスチェックだけでは見えにくいものがある
ストレスチェックは大切な仕組みです。ただし、相談しにくさ、休憩不足、睡眠不足、仕事量の偏りまでは十分に見えないことがあります。
本人がまだ不調を強く自覚していない段階では、結果に大きく表れない場合もあります。けれど、相談できる人がいない、睡眠が削られている、仕事の裁量が少なくなっている状態は、将来の不調リスクになります。
人事総務・健康経営担当者が見るべきなのは、ストレス反応の有無だけではありません。その社員が、今の職場で回復できる資源を持っているかどうかです。
医療的な対応が必要な場合
この記事は、職場のストレス管理と不調予防の視点から書いたものです。医学的な診断や治療を行うものではありません。
強い不眠、不安や落ち込み、出勤困難、食欲低下、涙が止まらない、仕事や日常生活への支障が続く場合は、自己判断せず、医療機関や専門職につなぐ必要があります。職場は診断するのではなく、以前との違いに気づき、相談しやすい状態を作ることが役割です。
社員の不調を本人任せにしないために
社員がつらそうに見えるとき、職場が確認したいのは「弱いかどうか」ではありません。相談先、休憩、睡眠、業務量調整、仕事の裁量が足りているかです。
この視点を社内で共有できると、社員の不調を本人の性格や根性の問題にせず、職場で支援できる材料として扱えるようになります。
参考文献:栗山宜子ほか「ストレスと精神的健康研究における『対処資源』の重要性」『大阪大学大学院人間科学研究科紀要』47,245-263,2021年
社員の不調を本人任せにせず、管理職の声かけと人事総務の支援判断をそろえたい場合は、けんこう総研の企業向けストレスマネジメント研修をご確認ください。
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。