ストレス研究memo
最新ストレス研究Vol.121/運動利益をもらえない場合と対象者
2024年8月7日更新
こんにちは、けんこう総研のタニカワ久美子です。皆さんの健康と幸福をサポートするために、今日も最新の情報をお届けします。
今日はRachel Curtisらの2023年の研究論文です。日々の生活で避けられないストレスについて、最新の学術研究を分かりやすく解説します。どうぞ最後までお楽しみください。
運動がうつ病や不安、ストレスの改善に役立つのか
今日論文のタイトルは、「Effectiveness of physical activity interventions for improving depression, anxiety and distress: an overview of systematic reviews」です。運動介入がうつ病、不安、ストレスの改善に与える効果:システマティックレビューの概観です。要は、運動がうつ病や不安、ストレスの改善に役立つのか?というお題です。
2023年のRachel Curtisらによる研究は、運動がうつ病、不安、心理的負担の軽減に対して中程度の効果があることを示しています。しかし、これらの効果を享受しにくい場合や人がいることも指摘しています。心理的ストレスが大きくなります。特に、長期的な運動プログラムにおいて効果が低くなってしまうのです。
調査対象者
Rachel Curtisらの研究は、成人を対象に、運動がうつ病、不安、および心理的負担に与える影響を調査しました。
128,119名の参加者を対象とした1,039のランダム化比較試験(RCT)を含む97の系統的レビューによって調査しました。参加者の年齢は29歳から86歳(中央値は55歳)であり、男女両方が含まれています。特に、うつ病、HIV、腎臓病を持つ人々、妊娠中および出産後の女性と、健康な個人において最大の利益が見られました。
研究方法
この研究は、運動が心理的健康に及ぼす影響を調査するために、12のデータベースから系統的レビューとメタアナリシスを検索することから始めています。
データ抽出とバイアス評価は、二人の独立したレビュアーによって行われ、意見の相違はチームの議論で解決されました。メタアナリシスの結果は、森林プロットを使用して標準化された平均差(SMD)で報告されました。運動介入の効果は、臨床状態および介入の特徴によって異なるかどうかを調べるために、サブグループ分析も行われました。
あんちょこ・「森林ブロット」とは
森林プロット(フォレストプロット、Forest Plot)とは、研究結果を視覚的にまとめ、全体的な効果を評価するためのグラフのことです。
主にメタアナリシスで使用され、各研究の効果サイズとその信頼区間を示すことで、全体的な効果を評価します。
森林プロットの構成要素
・個別の研究結果
・総合効果サイズ:メタアナリシス全体の効果サイズは、ダイヤモンド形で示されます。ダイヤモンドの中央が総合効果サイズを、両端がその信頼区間を示します。
・縦軸(Y軸):各研究の名前や出版年などの情報
・横軸(X軸):オッズ比、リスク比、平均差などの統計量
使用例と利点
・効果の一貫性の確認: 各研究の効果サイズを視覚的に比較することで、研究間の一貫性やバラツキを確認できます。
・総合的な結論の導出: 全体的な効果をまとめることで、個別の研究結果に依存せず、より信頼性の高い結論を導き出せます。
研究論文の考察
この研究は、運動がうつ病、不安、および心理的負担の軽減に対して中程度の効果があることを示しています。特に、高強度の運動がより大きな効果をもたらし、介入期間が長くなると効果が低減することがわかりました。
運動の効果は、他のさまざまな臨床研究とも一貫して観察されてます。特にうつ病、HIV、腎臓病を持つ人々、妊娠中および出産後の女性、健康な個人において顕著でした。また、高強度の運動が最大の利益をもたらす一方で、長期間の介入ではその効果が低減することも示されています。
運動の利益が見られなかったグループ
Rachel Curtisらの研究の新規性は、運動が多くの臨床集団に対して有益であることが示されましたが、特定のグループでは期待された利益が見られなかったことです。
1. 慢性的な痛みを持つ人
運動介入が心理的負担の軽減に対する利益をもたらすことが難しいことがわかりました。痛みそのものが運動を困難にして、運動の効果を減少させる可能性があるためです。
2. 高齢者
運動による心理的利益が、若年層に比べて限定的であることがわかりました。これは、身体的制約や既存の健康状態が運動の実施を困難にし、結果的に心理的な利益を減少させているからです。
3. 重度のうつ病を持つ人々
軽度から中程度のうつ病に対しては、運動が有益であるとされていますが、重度のうつ病を持つ人々に対しては、その効果が一貫していないことが報告されています。これは、重度のうつ病患者が運動を始めること自体が難しいため、効果が見られにくいからです。
利益が見られなかった理由
身体的制約: 痛みや既存の健康状態が運動を困難にする。
モチベーションの欠如: 重度のうつ病や高齢者においては、運動を始めるモチベーションが低い。
個別化された介入の欠如: 各個人の特性に合わせた運動プログラムが不足している。
長期間の運動介入で効果が低減する原因と理由
Rachel Curtisらの研究で示された、運動介入の効果が長期間にわたり低減する現象には、いくつかの原因と理由が考えられます。これらの原因と理由は、心理的、物理的、環境的要因があります。
1. 運動の習慣化による心理的効果の減少
初期段階では、新しい運動プログラムは新鮮であり、参加者に大きな心理的効果をもたらすことがあります。しかし、時間が経つにつれて、運動が習慣化し、心理的な刺激や新鮮さが減少する可能性があります。これにより、最初に得られた心理的利益が時間とともに減少することがあります。
2. 適応とプラトー効果
身体が運動に適応すると、同じ運動強度では新たなフィットネス効果が得られにくくなることがあります。これをプラトー効果と呼びます。効果を維持するためには運動の強度や種類を定期的に変更する必要があります。適応が進むと、心理的な効果も減少する可能性があります。
3. モチベーションの低下
長期間の運動介入では、モチベーションを維持することが難しくなります。初期の頃は新しいチャレンジや目標に対する興奮がモチベーションを高めますが、時間が経つとその興奮が薄れ、運動に対する興味や意欲が低下することがあります。
4. 生活環境やライフイベントの影響
長期間にわたる介入では、参加者の生活環境やライフイベントが変化することがあり、これが運動習慣に影響を与える可能性があります。仕事の忙しさや家庭の事情、健康状態の変化などが運動継続の障害となり得ます。
5. 運動負荷の持続性の難しさ
高強度の運動は短期間では有益ですが、長期間にわたり高強度の運動を維持することは困難です。過度の疲労や身体的な疲弊が生じる可能性があり、これが運動の持続性を低下させ、結果として効果の減少を招くことがあります。
まとめ
Rachel Curtisらの研究は、運動が多くの臨床集団に対して有益であることを示しつつも、特定のグループに対してはその利益が限定的であることを明らかにしました。
長期間の運動介入で効果が低減する原因は、運動の習慣化、適応とプラトー効果、モチベーションの低下、生活環境やライフイベントの影響、および運動負荷の持続性の難しさなど、多岐にわたります。これらの要因に対処するためには、運動プログラムの多様性を保ち、定期的なモチベーションの再評価やサポートが必要です。
グループに対してより効果的な運動介入を設計するために、個別のニーズや制約に合わせたアプローチが必要とされます。例えば、低強度の運動や痛み管理を組み合わせたプログラム、心理的サポートを含む包括的な介入が検討しなければなりません。
運動介入の具体的な内容や実施方法、個々の参加者の特性に基づいたカスタマイズされた介入が必要とされます。また、運動が精神的健康に及ぼす影響を長期的に追跡する研究や、異なる文化や社会経済的背景を持つ集団における効果を検証する研究も求められます。
詳しい内容については、ブリティッシュジャーナル学会のリンクから確認できます。
今日も酷暑で気温が上昇しています。こんな日に無理して根性だけで運動をしても、運動の利益は得られないことがおわかりいただけたでしょうか?無理せず、自分のペースで取り組むことが大切です。涼しくしてお過ごしください。例えば、朝早い時間でのストレッチなどがおすすめです。涼しい時間帯に体を動かして、一日の始まりを爽やかに迎えましょう。
これからも皆さんの健康と幸福をサポートするために、有益な情報をお届けしていきます。それでは、また次回お会いしましょう。素敵な一日をお過ごしくださいね。