ストレス科学ラボ・用語バンク
ストレスは健康の敵ではない?ユーストレスとディストレスの違い
ストレスは「悪」ではありません。健康経営に活かすユーストレスとディストレスの科学的理解
企業・教育機関・介護現場で問われるストレスリテラシーとは
ストレス=悪と捉えられがちですが、実際には「成長を促す良性ストレス=ユーストレス(Eustress)」と、「心身を蝕む悪性ストレス=ディストレス(Distress)」が存在します。
現代の職場や教育現場では、こうした“ストレスの質”を見極めて活用する視点が、健康経営の要となります。
今日は、産業ストレス管理専門家が科学的根拠に基づき、ストレスを味方に変える知識を解説します。人事・総務・教育機関の健康経営担当者の方は必見です。
なぜストレスは健康の「味方」になるのか?
ストレスという言葉にはネガティブな印象がつきまといますが、その「評価」の仕方が健康やパフォーマンスに大きく影響します。
2003年、Le Fevreらの研究※1では、職場ストレスが「害」だけでなく「成長促進要因」となる場合があることが示されました。ストレスそのものではなく、「その解釈」が健康を左右します。
ストレス反応の分かれ道:脅威 vs 挑戦
人は外的ストレッサーに直面したとき、それを「脅威(Threat)」か「挑戦(Challenge)」として無意識に評価します。
この評価が、感情・行動・生理反応に大きく影響します。
- 脅威としての認知: 不安や萎縮、免疫・自律神経への悪影響
- 挑戦としての認知: 意欲・集中・行動活性化、心身の正の活性化
職場ストレスの実態:成長要因か、障害要因か?
◆ストレッサーの種類 | ◆内容 | ◆解釈次第でどう変わるか |
---|---|---|
課題系ストレッサー | 目標達成、昇進、発表など | ユーストレスとして機能 |
障害系ストレッサー | パワハラ、不明瞭な役割、過重労働 | ディストレスとして作用 |
同じ出来事でも、本人のストレス認知・対処能力によって影響が大きく異なります。
ストレスの対処理論:「取引理論」の視点
心理学者ラザルスとフォークマンによる「ストレスの取引理論(Transactional Model of Stress)」は、ストレスを「認知→評価→対処」というプロセスで捉えます。
- 一次評価: 出来事を「脅威」「損失」「挑戦」と分類
- 二次評価: 自分の対処資源(スキル、人間関係等)の有無を評価
- 対処行動: 問題焦点型または情動焦点型を選択
この評価プロセスの質が、ストレスをユーストレスに変換できるか否かを左右します。
科学的評価ツール:知覚ストレススケール(PSS)
主観的なストレス体験を可視化する尺度として、Cohenら(1983)の「知覚ストレススケール(PSS:Perceived Stress Scale)」が広く用いられています。
- 測定対象: 過去1か月のストレス「知覚度合い」
- 特徴: 短時間で簡便に実施可能
- 用途: 医療現場/企業のストレスチェック/教育機関の自己理解支援など
PSSオリジナル論文PDFはこちら |
カーネギーメロン大学・ストレス研究の公式サイト
ユーストレスを健康経営に活かすには?
研修・組織施策でできること
- ユーストレス/ディストレスの違いを研修で明確化
- PSSを活用したストレス認知の可視化と自己理解の促進
- レジリエンスなどの対処スキル習得支援
- 「挑戦」的評価を促すワーク設計(目標設定・成功体験の再認知など)
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この記事を読んだ方によくある質問(FAQ)
Q1. ユーストレスとディストレスの違いは何ですか?
ユーストレスは「挑戦的な出来事」や「達成感」による良性ストレスで、成長や活力をもたらします。一方、ディストレスは「脅威」や「過度な負担」として認知される悪性ストレスで、心身に悪影響を及ぼします。
Q2. 職場でユーストレスを増やすにはどうすれば良いですか?
目標設定やスキルアップ研修、フィードバック文化の醸成など、「挑戦的で達成可能な課題」に社員が取り組める環境作りが重要です。また、成功体験を振り返るワークも有効です。
Q3. 知覚ストレススケール(PSS)はどのような場面で使えますか?
PSSは、職場のストレスチェック、健康経営プログラムの効果測定、教育現場での自己理解支援など、幅広い領域で活用されています。
Q4. ユーストレスの科学的根拠はどこにありますか?
Le Fevreら(2003)の「職場におけるストレスの解釈」や、Cohenら(1983)のPSS開発研究などが代表的な科学的根拠です。詳細は本記事の参考文献や関連論文リンクをご参照ください。
引用・参考文献
★Le Fevre, M., Matheny, J., & Kolt, G. S. (2003). Eustress, distress, and their interpretation in primary and secondary stress appraisal. Journal of Managerial Psychology, 18(7), 726–744.
★Cohen, S., Kamarck, T., & Mermelstein, R. (1983). A global measure of perceived stress.
Journal of Health and Social Behavior, 24(4), 385–396.