ストレス管理
ストレスは健康の敵ではない?ユーストレスとディストレスの違い
「ストレスは健康の敵」と考えている方は多いかもしれません。
たしかに、長時間労働、人間関係の不安、過重な責任、休めない状態が続けば、心と体は消耗します。これはディストレス、つまり心身に悪い影響を与えるストレスです。
一方で、すべてのストレスが悪いわけではありません。適度な緊張感、やりがいのある目標、成長につながる課題は、集中力や行動力を高めることがあります。このような良い方向に働くストレスを、ユーストレスといいます。
この記事では、ユーストレスとディストレスの違いを、人事総務・保健師・ケアマネジャーなど、職場の健康を支える方にも使いやすい形で解説します。
ストレスはすべて悪いわけではない
ストレスという言葉には、悪い印象があります。
けれども、仕事や生活の中でストレスを完全になくすことはできません。新しい仕事を覚える、責任ある役割を任される、人前で話す、目標に向かって取り組む。このような場面にもストレスはあります。
大切なのは、ストレスがあるかどうかだけで判断しないことです。
同じ負荷であっても、「自分なら取り組めそう」「意味がある」「周囲の支えがある」と感じられる場合、そのストレスは前向きな行動につながります。これがユーストレスです。
反対に、「自分には無理だ」「助けてもらえない」「失敗したら責められる」と感じる場合、同じ負荷でも心身を消耗させます。これがディストレスです。
ユーストレスとは何か
ユーストレスとは、心や体に負荷はかかっているけれど、その負荷が成長、集中、達成感につながるストレスのことです。
たとえば、次のような場面です。
- 少し難しい仕事に挑戦して、できたときに達成感を得る
- 発表前に緊張するが、その緊張で集中力が高まる
- 新しい役割に不安はあるが、周囲の支援があり前向きに取り組める
- 適度な運動で体に負荷をかけたあと、気分がすっきりする
ユーストレスは、「楽しいだけの状態」ではありません。少し緊張したり、不安を感じたりすることもあります。
それでも、本人が「挑戦できる」と感じられ、必要な支援や回復の時間があると、その負荷は良い方向に働きます。
ディストレスとは何か
ディストレスとは、心や体を消耗させるストレスです。
本人にとって負荷が大きすぎる、相談できない、休めない、意味が見えない。このような状態では、ストレスは成長ではなく疲弊につながります。
たとえば、次のような場面です。
- 仕事量が多すぎて、休憩や睡眠が削られている
- 役割や責任があいまいで、常に不安がある
- 上司や同僚に相談しにくい
- 失敗を責められるため、新しいことに挑戦できない
- 努力しても評価されず、無力感が強くなる
ディストレスが続くと、気分の落ち込み、集中力の低下、睡眠の乱れ、体調不良、離職意向の高まりにつながることがあります。
職場の健康経営では、このディストレスを見逃さないことが重要です。
ユーストレスとディストレスの違い
ユーストレスとディストレスの違いは、単に「良い出来事」か「悪い出来事」かでは決まりません。
同じ出来事でも、本人の受け止め方と職場環境によって変わります。
| 視点 | ユーストレス | ディストレス |
|---|---|---|
| 本人の受け止め方 | 挑戦できそうと感じる | 脅威や不安として感じる |
| 職場の支援 | 相談先や裁量がある | 孤立し、助けを求めにくい |
| 心身への影響 | 集中、達成感、成長につながる | 疲労、不調、回避につながる |
| 職場での結果 | 主体性や学習が生まれやすい | ミス、離職、生産性低下につながりやすい |
つまり、健康経営で大切なのは、ストレスを一律に減らすことではありません。
減らすべきストレスと、活かせるストレスを分けて考えることです。
ストレス反応を分ける「脅威」と「挑戦」
人はストレスを受けたとき、その出来事を無意識に評価しています。
「これは自分にとって危険だ」「失敗したら大変だ」と感じると、脅威として受け止めます。この場合、不安や萎縮が強くなり、行動しにくくなります。
一方で、「大変だけれど取り組む意味がある」「支援があればできそうだ」と感じると、挑戦として受け止めやすくなります。この場合、緊張はあっても、集中や行動につながります。
この違いは、本人の性格だけで決まるものではありません。上司の声かけ、業務量、相談しやすさ、失敗への扱い方、休憩や回復の時間によって変わります。
取引理論で見るストレスの仕組み
ストレス研究では、ラザルスとフォークマンの取引理論がよく知られています。
取引理論では、ストレスを「出来事そのもの」ではなく、本人がその出来事をどう受け止め、どう対処できると感じるかによって変わるものとして考えます。
- 一次評価:その出来事を、脅威・損失・挑戦のどれとして受け止めるか
- 二次評価:自分に対処できる力や支援があるかを判断する
- 対処行動:問題を解決する、相談する、気持ちを整えるなどの行動を選ぶ
この考え方を職場に当てはめると、ストレス対策は「本人の気合い」に任せるものではないとわかります。
社員が挑戦として受け止められるように、職場側が情報、裁量、支援、回復の仕組みを整える必要があります。
健康経営では「減らすストレス」と「活かすストレス」を分ける
企業のストレス対策では、すべてのストレスを減らそうとすることがあります。
もちろん、ハラスメント、過重労働、長時間労働、孤立、睡眠不足につながる働き方は減らすべきです。これらはディストレスになりやすく、心身の不調につながります。
一方で、すべての負荷をなくしてしまうと、成長や達成感の機会も少なくなります。
健康経営では、次のように分けて考えることが必要です。
- 減らすべきストレス:過重労働、ハラスメント、孤立、休めない状態、役割のあいまいさ
- 活かせるストレス:挑戦的な目標、新しい学び、責任ある役割、適度な緊張感
ただし、活かせるストレスにするには条件があります。本人に裁量があること、相談できること、失敗しても学びに変えられること、休めることです。
この条件がなければ、挑戦的な仕事もディストレスになります。
人事総務・保健師・ケアマネが現場で見るべきサイン
ユーストレスとディストレスを分けるには、社員や職員の様子を丁寧に見る必要があります。
特に、人事総務、保健師、ケアマネジャーの方は、次のようなサインに注意してください。
- 以前より表情が乏しくなっている
- 小さなミスや確認漏れが増えている
- 休憩を取らず、常に急いでいる
- 相談や雑談が減っている
- 睡眠不足や疲労感を口にしている
- 新しい仕事に対して強い不安を示している
これらが見られる場合、本人の努力不足と判断するのではなく、負荷と支援のバランスが崩れていないかを確認することが大切です。
知覚ストレススケールという考え方
ストレスは、外から見ただけではわかりにくいものです。
同じ業務量でも、平気そうに見える人が強い負担を感じていることがあります。反対に、忙しくても充実感を持って取り組めている人もいます。
そのため、ストレス管理では、本人がどのくらいストレスを感じているかを確認する視点が必要です。
Cohenらによる知覚ストレススケールは、本人が最近の生活をどのくらい「予測できない」「思い通りにならない」「負担が大きい」と感じているかを把握するための尺度として知られています。
職場では、こうした考え方を参考にしながら、ストレスチェック、面談、保健指導、職場改善につなげることができます。
ユーストレスの全体像を知りたい方へ
この記事では、ユーストレスとディストレスの違いを中心に整理しました。
ユーストレスの定義、職場で生まれる条件、関連する解説記事の全体像については、以下の固定ページでまとめています。
ユーストレス(良性ストレス)とは|職場で活かすストレス資源の全体像
まとめ|ストレスを敵にしない健康経営へ
ストレスは、すべてが健康の敵ではありません。
適度な負荷があり、本人が挑戦として受け止められ、職場に支援や回復の仕組みがあるとき、ストレスはユーストレスとして働きます。
一方で、負荷が大きすぎる、相談できない、休めない、意味が見えない状態では、ストレスはディストレスとなり、心身を消耗させます。
健康経営で大切なのは、ストレスを一律に減らすことではありません。減らすべきストレスと、活かせるストレスを分けて設計することです。
けんこう総研では、ユーストレスとディストレスの考え方をもとに、健康経営、メンタルヘルス、管理職ラインケア、職場改善に活かせる研修・フォローアップ支援を行っています。
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引用・参考文献
- Le Fevre, M., Matheny, J., & Kolt, G. S. (2003). Eustress, distress, and their interpretation in primary and secondary stress appraisal. Journal of Managerial Psychology, 18(7), 726–744.
- Cohen, S., Kamarck, T., & Mermelstein, R. (1983). A global measure of perceived stress. Journal of Health and Social Behavior, 24(4), 385–396.
