感情労働ストレス
教員のメンタルヘルス問題を個人対応で終わらせない判断
教員のメンタルヘルス問題が相談に上がったとき、人事総務や学校管理職は迷います。
これは本人の不調として対応すればよいのか。それとも、学校全体の負担のかかり方として見直すべきなのか。
教員の疲れは、単に「忙しいから」だけでは見えてきません。保護者対応、生徒指導、校務分掌、職員間の調整が重なり、しかもその多くが「対応できる先生」に戻り続けていることがあります。
この記事では、教員のメンタルヘルス問題を、本人の弱さや個人対応で終わらせず、職場としてどこを見るべきかを整理します。
感情労働ストレスが職場に残りやすい理由は、感情労働ストレスが職場に残る理由で整理しています。この記事では、教員のメンタルヘルス問題を、本人対応で終わらせるのか、学校全体の負担として扱うのかという判断に絞ります。
「大丈夫そう」に見える先生ほど、負担が見えにくい
学校現場では、疲れている先生ほど、周囲に心配をかけないように普段どおりにふるまうことがあります。
授業では笑顔を見せる。保護者には丁寧に説明する。職員室では周囲の空気を読んで、困っていることを言い出さない。
そのため、管理職からは「対応できている」と見えます。人事総務にも、問題として上がってきません。
けれども、対応できていることと、回復できていることは別です。
難しい対応を終えたあとも、次の連絡を気にしている。職員室で会話が減っている。以前より確認が増えている。こうした変化は、本人が「大丈夫です」と言っていても、職場として見たいサインです。
教員のメンタルヘルス問題は、負担の偏りから深まりやすい
教員の不調は、本人の性格だけで起きるものではありません。
保護者対応が得意な先生に、難しい相談が集まる。生徒指導ができる先生に、対応の難しい案件が戻る。若手教員の相談を、特定の中堅教員が受け続ける。
こうした状態が続くと、周囲からは「頼れる先生」に見えても、本人の中では負担が積み上がります。
人事総務が見るべきなのは、誰が弱っているかだけではありません。どの先生に、どの種類の負担が集まり続けているかです。
職場で見たい判断材料
| 現場で起きていること | 見えにくい負担 | 人事総務・管理職が見る判断 |
|---|---|---|
| 保護者対応が同じ先生に集まる | 対応後も緊張が残りやすい | 対応を個人の力量に任せていないか |
| 生徒指導を一部の先生が担い続ける | 感情を抑える場面が続く | 指導後の共有先が決まっているか |
| 校務や行事の調整が重なる | 授業以外で回復時間がなくなる | 業務の偏りを見直しているか |
| 職員間の方針調整を抱える | 意見を言えず、内側にため込む | 相談前の声かけがあるか |
| 本人が「大丈夫」と言い続ける | 不調を出す前に自分で処理しようとする | 大丈夫の中身を確認しているか |
本人対応で止めるか、職場課題に変えるか
人事総務が迷うのは、どの段階で職場課題として扱うかです。
本人から不調の申し出があれば対応できます。けれども、教員の場合は、申し出が出る前に抱え込みが進んでいることがあります。
「忙しい時期だから仕方ない」
「あの先生は対応力があるから任せられる」
「本人が大丈夫と言っているから様子を見る」
この判断が続くと、負担は見えないまま同じ人に戻ります。
職場課題に変えるとは、本人を問題にすることではありません。保護者対応、生徒指導、校務、職員間調整のどこに負担が集まっているかを、学校として見えるようにすることです。
管理職の善意だけに任せない
管理職が丁寧に声をかけていても、それだけでは支えきれないことがあります。
管理職が一人で聞き役になり、判断も抱え、業務調整まで背負ってしまうと、管理職自身の負担も増えます。
人事総務が確認したいのは、管理職が声をかけているかどうかだけではありません。
声をかけたあと、どこまでを現場内で扱い、どこから人事総務と共有するのか。業務調整が必要な場合、誰が判断するのか。記録として何を残すのか。
ここが決まっていないと、教員支援は管理職の個人技になってしまいます。
専門職でも迷う判断ポイント
専門職でも迷うのは、メンタルヘルス問題を早く見つけることだけではありません。
むしろ難しいのは、「まだ不調者として扱う段階ではないが、このままでは同じ先生に負担が戻り続ける」と感じたときの判断です。
この段階で必要なのは、診断名を探すことではありません。現場で起きている負担を、人事総務と管理職が共有できる言葉に変えることです。
保護者対応後の緊張。生徒指導後の沈み込み。校務調整の抱え込み。職員間で相談しにくい空気。
こうした違和感を、本人の性格ではなく、職場の判断材料として扱う準備が必要です。
研修前に整理すべき判断課題
研修前に整理したいのは、教員一人ひとりの弱さではありません。
難しい対応が誰に集まっているか。管理職がどこまで聞き役を担っているか。人事総務に共有する基準があるか。研修後に、声かけ、共有、記録、業務調整の流れが決まっているか。
ここが曖昧なまま研修を行うと、受講者は「大切な話だった」と感じても、現場ではまた同じ先生に負担が戻ります。
教員のメンタルヘルス対策は、本人にセルフケアを促すだけでは足りません。学校ごとの負担の集まり方を見て、職場で動かせる形に変える必要があります。
タニカワ久美子の研修で扱う実装領域
タニカワ久美子の教育機関向け研修では、教員のメンタルヘルス問題を「本人の弱さ」として扱いません。
研修で扱うのは、現場で起きている判断の迷いです。
対応できる先生に負担が戻っていないか。管理職が一人で抱えていないか。人事総務に共有する前の違和感を、どう言葉にするか。本人が「自分のせい」と思っている状態を、職場の判断材料にどう変えるか。
この部分は、一般的な知識だけでは動きません。学校ごとの業務分担、管理職の関与範囲、人事総務への共有基準、研修後の振り返り方法まで設計する必要があります。
教員のメンタルヘルス問題を個人対応で終わらせないために
教員のメンタルヘルス問題を、本人の努力や管理職の善意だけに戻してしまうと、職場の負担構造は変わりません。
対応できる先生に難しい業務が戻り続けていないか。管理職が一人で聞き役を抱えていないか。人事総務への共有基準が曖昧になっていないか。
このテーマを、教員本人の問題で終わらせず、学校全体の判断課題として整理できていますか。
参考文献
- 矢部育子ほか「中学校教員用感情労働尺度構成の試み」The Japanese Journal of Health Psychology, 2011, 24(1), 59-66.
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。