感情労働ストレス
EWSTの3因子を教員評価にしない判断
教員のバーンアウトを考えるとき、忙しさだけを見ていると、学校現場で起きている負担を見落とすことがあります。
授業を進める。生徒を励ます。問題行動には冷静に向き合う。保護者の不安を受け止める。職員室では周囲との関係にも気を配る。
こうした日々の対応には、外から見えにくい感情の負担があります。
この記事では、教員の感情労働をEWSTの3つの視点から見て、先生個人の評価ではなく、学校としてどこに負担が残っているのかを判断するための見方を整理します。
感情労働ストレスが職場に残りやすい理由は、感情労働ストレスが職場に残る理由で整理しています。この記事では、EWSTを使って教員の感情負担をどう見るかに絞ります。
EWSTを先生の評価に使わない
EWSTは、教員の感情労働を見るための手がかりです。
大切なのは、点数や因子名で先生を評価することではありません。
「この先生は感情を出しすぎる」「この先生は生徒を見られていない」「この先生は厳しすぎる」と見ると、現場の負担が個人の問題に戻ってしまいます。
人事総務や学校管理職が見たいのは、先生がどの場面で感情を調整し続けているのか、その負担が一人に戻り続けていないかです。
EWSTは、先生を評価するためではなく、学校のどこに感情労働が残っているかを見る入口です。
表出操作|本音と態度のずれを見る
表出操作とは、本当は疲れている、不安がある、怒りを感じている。それでも職場で必要な態度に整えて対応することです。
教員の場合、疲れていても明るく授業を進める。保護者から強い言葉を受けても、冷静に説明する。生徒の問題行動に怒りを感じても、教育的な言葉に変える。
こうした対応は、先生の専門性でもあります。
ただし、これが長く続くと、内側の気持ちと外側の態度のずれが大きくなります。
人事総務や管理職が見たいのは、「きちんと対応できているか」だけではありません。対応後に表情が戻っているか、緊張が残っていないか、同じ先生に難しい対応が戻っていないかです。
積極的感知|気づける先生ほど抱えやすい
積極的感知とは、生徒の表情、声、反応、友人関係の変化を読み取ろうとする働きです。
授業中に元気がない生徒に気づく。いつもと違う反応を見逃さない。学級の空気の変化を感じ取る。保護者の不安の奥にある事情を考える。
これは教育の質を支える大切な力です。
けれども、気づける先生ほど、その後の対応まで一人で抱えやすくなります。
「気づいたからには何とかしなければ」と思い、授業外でも考え続ける。管理職に相談する前に、自分で整理しようとする。家庭背景や友人関係まで気になり、休んでいる時間にも頭から離れない。
ここで見るべきなのは、先生の感受性の強さではありません。気づいた後に、学校内で共有できる流れがあるかです。
指導的表出|厳しさを一人で背負わせない
指導的表出とは、生徒の成長や学級全体の安全を考えて、あえて厳しい態度や言葉を使うことです。
教員は、いつも優しく接するだけではありません。場面によっては、毅然とした対応が必要になります。
ただし、厳しさを出す判断は簡単ではありません。
強すぎれば関係が傷つく。弱すぎれば指導が届かない。周囲の生徒への影響も考えなければならない。保護者からどう受け止められるかも気になる。
この判断を、毎回一人の先生に任せていると、指導のあとに強い疲労が残ります。
管理職が見るべきなのは、「指導できているか」だけではありません。厳しい対応をしたあと、その先生が一人で判断を持ち帰っていないかです。
学校で見たい判断材料
| EWSTの視点 | 現場で見える姿 | 学校として見る判断 |
|---|---|---|
| 表出操作 | 疲れていても明るく授業を進める | 本音と態度のずれが続いていないか |
| 表出操作 | 保護者対応後も冷静にふるまう | 対応後の緊張を一人で抱えていないか |
| 積極的感知 | 生徒の小さな変化にすぐ気づく | 気づいた後の共有先があるか |
| 積極的感知 | 家庭背景や人間関係まで考え続ける | 担任だけに判断が戻っていないか |
| 指導的表出 | 厳しさと配慮を使い分ける | 指導後の振り返りが個人任せになっていないか |
感情労働を「先生なら当然」にしない
学校現場では、感情を整えて対応することが「先生なら当然」と見られやすくなります。
保護者に丁寧に説明すること。生徒の変化に気づくこと。厳しさを教育的に使うこと。どれも大切な仕事です。
ただし、大切な仕事だからこそ、個人の我慢だけに戻してはいけません。
対応できる先生に難しい案件が集まっていないか。気づける先生に相談役が偏っていないか。厳しい指導が必要な場面を、担任だけが背負っていないか。
ここを見ないまま「先生の専門性」とだけ言ってしまうと、負担は見えないまま残ります。
専門職でも迷う判断ポイント
専門職でも迷うのは、EWSTの結果をどう現場に戻して見るかです。
表出操作が高いとき、本人の感情管理の問題として見るのか。積極的感知が高いとき、よく気づく先生として頼り続けてよいのか。指導的表出が高いとき、指導力がある先生として任せ続けてよいのか。
ここで必要なのは、因子名の説明ではありません。
その先生がどの場面で感情を使い続けているのか。対応後に戻る時間があるのか。学校として共有する材料になっているのか。
EWSTを見る意味は、先生の性格を判断することではなく、学校の中に残っている感情負担を見つけることです。
研修前に整理したいこと
研修前に整理したいのは、EWSTの点数そのものではありません。
保護者対応で表出操作が続いていないか。生徒の変化に気づいた先生が、その後の対応まで抱えていないか。指導的な厳しさを出したあと、先生が一人で悩んでいないか。
ここを見ないまま研修を行うと、受講者は「感情労働は大切なテーマだ」と理解しても、現場ではまた同じ先生に負担が戻ります。
記事で扱えるのは、問題の見方までです。実際の職場では、学校ごとの保護者対応、生徒指導、学級運営、管理職の関与範囲を見ながら、扱い方を分ける必要があります。
タニカワ久美子が見る現場の違和感
タニカワ久美子が教育機関の研修現場で見てきたのは、感情労働ができる先生ほど、負担が見えにくくなるということです。
明るく授業を進められる先生。生徒の小さな変化に気づける先生。厳しい指導を引き受けられる先生。こうした先生ほど、学校の中で頼られやすくなります。
しかし、頼られることと、支えられていることは別です。
人事総務や管理職が見たいのは、よくできる先生をさらに頼ることではありません。その先生の後ろに、どの感情負担が残っているかです。
EWSTを学校の負担を見る入口にする
EWSTは、教員の感情労働を見える形にするための入口です。
表出操作、積極的感知、指導的表出は、どれも教員の大切な専門性です。
だからこそ、個人の能力や性格として片づけず、学校のどこに負担が残っているかを見る必要があります。
教員の感情労働を「先生なら当然」で終わらせず、職場で扱うべき負担として見られていますか。
参考文献
- 矢部育子ほか「中学校教員用感情労働尺度構成の試み」健康心理学研究, 2011, 24(1), 59-66.
- Hochschild, A. R. (1983). The Managed Heart.
- Maslach, C., Jackson, S. E., & Leiter, M. P. Maslach Burnout Inventory Manual.
文責:タニカワ久美子
研修テーマが未定でも、対象者・職場状況・実施時期に合わせて整理します。