ストレス研究memo
タニカワ久美子のストレス管理研究memoVol.148
2024年10月8日更新
研究論文
デスクワーカーにおける心拍変動とストレスレベルの変動に対する運動習慣の影響
1. 研究の背景
近年、職場でのストレスは多くの成人において深刻な健康問題の一因となっている。特に、デスクワーカーは座りがちな生活習慣により、心身の健康リスクが高いとされている。運動がストレス軽減に効果的であることは多くの研究で示されているが※1、その効果は個々の運動習慣や心理的状態により異なる可能性がある。
とくに、ストレス管理においては、個別化されたアプローチが必要である。本研究では、ウェアラブルデバイスを用いてデスクワーカーの運動習慣と顕在性不安度の関連性を調査し、運動が心拍変動(HRV)およびストレスレベルにどのような影響を与えるかを明らかにする。
2. 研究課題
1. デスクワーカーにおいて、勤務中の運動がストレス軽減に有効であるかどうかの検証。
2. 運動強度と心拍数、ストレスレベルとの関係を明確にし、運動習慣が心身の健康に与える影響を探る。
3. 個々の運動習慣や顕在性不安度によるストレスレベルの変動を評価し、個別化されたストレス管理プログラムの基盤を提供する。
3. 研究目的
本研究の目的は、デスクワーカーにおける運動習慣とストレスの関連を明らかにし、運動が生理的および心理的ストレス反応に与える影響を理解することです。また、個別化されたストレス管理方法を提案し、ストレス軽減に役立つ運動アプローチを探ります。
4. 研究方法
対象者
20~50歳のデスクワーカー10名を対象とし、運動習慣の有無で2群に分けました。運動習慣ありの定義は、1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続していることとしました。
データ収集方法
1. 心理的ストレスデータは、MMPIの顕在性不安検査(MAS)を使用して収集。
2. 生理的ストレスデータは、光電容積脈波(PPG)を用いて心拍数とHRVを非侵襲的に測定。
運動条件
研究参加者は、ウェアラブルデバイスを装着し、1METsから最大10METsの運動を実施。各運動強度における心拍数とストレスレベルの変動を測定しました】。
5. 研究結果
1. 心拍数の変動
運動強度が増すにつれて心拍数が有意に増加しました。1METs時には心拍数の中央値は73.0で、2〜3METsでは79.0、4METs以上では93.0となりました(p < 0.001)。これにより、運動強度が心拍数に大きく影響することが確認されました。
2. ストレスレベルの変動
ストレスレベルについても、運動強度の増加とともに上昇する傾向が見られました。特に、1METsの運動時よりも2〜3METsの運動時において有意な差が見られ、運動が短期的にストレスを増加させる可能性が示唆されました(p < 0.05)。
3. 運動習慣の有無による比較
運動習慣がある群では、心拍数に大きな個人差が見られましたが、ストレスレベルは比較的安定していました。一方で、運動習慣がない群ではストレスレベルの個人差が大きく、ストレスに対する感受性が高いことが示されました。
4. 顕在性不安と心拍数・ストレスレベルの関係
顕在性不安が高い群では、心拍数およびストレスレベルが他の群よりも高く、不安が生理的ストレス反応を増強することが確認されました(p < 0.001)【5†source】【11†source】。
6. 考察
本研究では、運動習慣の有無が心拍数およびストレスレベルに与える影響が確認されました。特に、運動習慣があるデスクワーカーでは、運動がストレス管理に有効であり、ストレスレベルが比較的安定していることが示唆されました。一方で、運動習慣がない人々では、ストレス管理能力が低く、ストレスに対する感受性が高いことが分かりました。また、運動強度が高くなると一時的にストレスが増加するものの、運動後にはストレスが軽減される可能性が示されており、運動は長期的なストレス管理に有効であると考えられます。
7. 研究の限界
1. サンプルサイズが非常に小さく(N=10)、統計的検出力が低いため、結果の一般化には限界があります。
2. ウェアラブルデバイスによる測定精度に限界があり、特に高強度の運動に対するデータが不足している点が課題です。
3. 運動強度が限られていたため、他の運動形態や長期的な影響については評価できていません。
8. 結論
運動習慣がデスクワーカーの心拍数やストレスレベルに与える影響は大きく、特に運動がストレス管理に役立つ可能性が示されました。運動習慣がない場合、ストレスに対する感受性が高くなることから、定期的な運動を取り入れることでストレスの軽減が期待されます。今後は、サンプルサイズの拡大や異なる運動形態の検討が必要です。
この研究により、運動がデスクワーカーのストレス管理において重要な役割を果たすことが確認され、今後の健康管理に対する応用が期待されます。