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諦観はストレス対策か/ストレス研究ノートvol.12
2022年1月9日更新
諦観に関する先行研究
諦観(ていかん)の定義=「自己や状況のネガティブな側面をそのまま受け入れつつも、そこにこだわらない前向きな態度」
必ずしも物事の現状をポジティブな枠組みで捉え直すことではなく、あくまで現状のネガティブな側面はネガティブなまま、あるがままに受け入れるといった楽観
的な諦観をもって思い悩まないという認知的態度。
⇒適応的諦観が、社会的な規範意識を根強く有する日本人にとって、ある種のレジリエンスとして機能する可能性がある。
仮説と目的
精神的健康の向上を目的とした日本での認知行動的アプローチの実践や、ストレス対策は、ストレスに対する気づきを促すのみでは不十分。
ネガティブな気づきに対する楽観的で適応的な諦観をもつことが重要であるという仮説がたつ。
⇒適応的な諦観の役割の検討
ストレスを測定する尺度
「職業性ストレス簡易調査票」旧労働省委託研究班のストレス測定グループによって開発された
しかし、「職業性ストレス簡易調査票」は、ストレッサーによる心身の反応の有無、「気づいているかどうか」を直接問うもの。当然そこには意識的に気づいているものしか反映されない。
<本研究の仮説>
ストレスへのモニタリング志向は
(a)ポジティブな精神的健康へ負の直接効果と適応的諦観を介した正の間接効果を示す
(b)ネガティブな精神的健康へ正の直接効果と適応的諦観を介した負の間接効果を示す
<尺度の開発>
「ストレスへのモニタリング志向」尺度
12項目 4 件法(「そう思わない」,「あまりそう思わない」,「ややそう思う」,「そう思う」)で構成。
質問紙の構成
尺度案の他,以下の質問紙を用いた。
・二次元レジリエンス要因尺度
個々人のレジリエンスを導く多様な要因のうち
・資質的レジリエンス要因
・獲得的レジリエンス要因
2 つのレジリエンス要因を測定する尺度で。
項目例 :
決めたことを最後までやりとおすことができる(資質的レジリエンス)
嫌な出来事があったとき,今の経験から得られるものを探す(獲得的レジリエンス))
妥当性・信頼性が確認されており(平野, 2010)
日本語版 Acceptance and Action Questionnaire-II (AAQ-II )は 7 項目 7 件法で,
アクセプタンス & コミットメント・セラピー(ACT )における「体験の回避」を測定する尺度=心理的非柔軟性の指標
嶋・柳原・川井・熊野(2013)によって信頼性と妥当性が確認
尺度得点が高いほど心理的柔軟性が低く,不適応的であることを示す。
自己肯定感尺度 ver2 自己肯定感尺度 ver2 は 8 項目 4 件法
「自己に対する前向きで,好ましく思う態度や感情(田中, 2008)」としての自己肯定感を測定。
妥当性・信頼性が確認されており(田中, 2008)
日本語版 Warwick-Edinburgh Mental Well-being Scale は14 項目 5 件法
快楽主義的側面と幸福主義的側面の両側面を反映したポジティブな精神的健康状態を測定
妥当性・信頼性が確認されている(菅沼・平野・中野・下山,2016; Tennant et al., 2007)。
Public Health Research Foundation ストレスチェックリスト・ショートフォーム 24 項目 3 件法
日常生活におけるストレス反応を心理的側面と身体的側面から多面的に測定する尺度妥当性・信頼性が確認されている(今津他, 2006)。
因子構造の検討
確認的因子分析
信頼性の検討
媒介分析によるモデルの検討
尺度の信頼性と妥当性
各尺度の記述統計量について分散分析を行った結果
ストレスへのモニタリング志向については、成人前期─中期の労働者の間で、性別・年代において大きな差がみられなかった。
ふつう年齢を重ねるごとに研修や人事面接等を通じてメンタルヘルスに対する理解が深まり、ストレスへのモニタリング志向が高まることが期待されるが、必ずしもそうではなく、一定であることが示唆された。
適応的諦観
年代の主効果が得られ,20 代<40 代となっていた。
仕事や家庭における経験を通じて、年齢を重ねるにつれてネガティブな出来事に対する受け止め方を身につけていく傾向が存在する可能性がある。
・ストレスへのモニタリング志向と適応的諦観が精神的健康の向上のためのレジリエンス要因として捉えられる
・適応的諦観は自己肯定感と想定通り中程度の相関を示した。
本研究で開発された尺度は試行的なものとして位置づけ
1.構成概念および測定概念の精緻化
2.尺度項目の吟味
3.ストレッサーやストレス反応を含めた関連概念との並存的妥当性・再検査信頼性と
いった作業を行うことで発展させていく必要がある。
ストレスへのモニタリング志向の精神的健康に対する機能に焦点を当て
媒介変数として適応的諦観を用いた媒介分析の結果は
適応的諦観が、ストレスへのモニタリング志向と精神的健康の媒介要因として機能していることが明らかになった。
適応的諦観を考慮しない分析において
ストレスへのモニタリング志向はネガティブな精神的健康を高める機能を有する。
これは自己のストレスを意識しようとすることが、結果としてストレス反応を高めてしまう(先行研究)
ストレスへのモニタリング志向は
(a)ポジティブな精神的健康へ負の直接効果と適応的諦観を介した正の間接効果を示す
(b)ネガティブな精神的健康へ正の直接効果と適応的諦観を介した負の間接効果を示す
引用元:
精神的健康における適応的諦観の意義と機能 ;菅沼他,心理学研究89-3,229-239,2018
文責:タニカワ久美子
本投稿文は、理解を重視し、読み易くしています。
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