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労働者のストレスとメンタルヘルス/ストレス研究ノートvol.11
2022年1月9日更新
社会的ニーズの高い労働者のストレスを題材に、適応的諦観とその精神的健康に対する機能の検討:タニmemo
自己のストレスへの気づきと社会的規範意識
日本政府は近年,労働者のメンタルヘルスやストレスについて積極的な取り組みを行っており、特にストレス対策に力を入れている。
厚生労働省(2000)は「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を公示
心の健康づくりでは、働者自身がストレスに気づき対処する必要性を認識することが重要であると主張している。
「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」は 、2006 年に労働安全衛生法第 70 条の 2 第 1 項に基づく「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に改正し、
法律に基づく指針となった。
メンタルヘルス不調の第一次予防に向けたアプローチ
「個人向けストレス対策」
「管理監督者教育」
「職場環境等の評価と改善」
個人向けストレス対策
労働者自身のセルフケア能力を向上させ,自己のストレスに早期に気づき、適切に対処できるようになることを支援するもの。
このような国の指針は、認知行動的アプローチとして
クライエントの目標=自分の心理的問題に自分で対処できるスキルを身につける
<具体的方法>
環境刺激からのセルフモニタリング=自身の反応への気づきを促す効果測定+行動変容のきっかけ
<課題>
労働者個々人レベルでのストレスのモニタリングやセルフケアには限界がある
日本人は
「社会人として他者に迷惑をかけてはいけない」
「組織の秩序を乱してはならない」
「その場の空気を読んで適切に行動すべき」
といった社会的な規範意識が強い。
<例>
江戸時代から滅私奉公という倫理観=日本人の集団帰属意識の強さの原点,高橋(2005)
日本人の労働観について
も,会社に対して「尽くしたい」と回答した割合が近年増加している,清川・山根(2004)
<理由>
・厳しい雇用情勢の中、懸命に働かなくてはならないという危機感の表れと解釈
・「和をもって尊しとなす」相互協調的自己観が支配的傾向を報告,高田(1999)質問紙調査による国際比較研究
・仕事場面における相互協調性や組織への強い帰属意識
・自己よりも所属する集団を優先
<結果>
自己のストレッサーやストレス反応から目を背けてしまうリスク
がある。
他者に気に入られようとして自分の本音を抑えその期待に応えようとする特性=自己抑制型行動特性(イイコ行動特性)として概念化,宗像(1996)
日本人に多くみられ、抑うつとの関連が高い,山本・宗像, 2012)。
日本人は、自己のストレッサーやストレス反応への気づきから意識的または無意識的に目を背け、思考や感情を表出せずに抑え込むことで結果的に環境に適応する傾向が強い。
そのため、自身のストレスについて把握するのが苦手である。
反対に
自己のストレスを意識すると、結果としてストレス反応を高めてしまうリスクも考えられる。
↓
ストレスの気づきを測定するには、
ストレッサーやストレス反応そのものだけでなく、
ストレッサーやストレス反応に関するモニタリングの志向性を測定することが重要
ストレスを意識することによる悪影響を緩和するものとして、本研究では自己や自己を取り巻く状況に対する諦観的態度に着目。
認知行動療法の新しいアプローチ法『マインドフルネス』
マインドフルネスとは、「今,この瞬間の体験に意図的に意識を向け,評価をせずに,とらわれのない状態で,ただ観ること」とされる(日本マインドフルネス学会,2017)
<マインドフルネスストレス低減法>
「自分で評価をくださないこと」
「忍耐づよいこと」
「初心を忘れないこと」
「自分を信じること」
「むやみに努力しないこと」
「受け入れること」
「とらわれないこと」
マインドフルネスは、認知行動療法にネガティブな思考や感情から距離をとるという新しい機能をもたらした。
⇒第3世代の認知行動療法。
↓関連
アクセプタンス=嫌悪的な状況に対する自分の反応をそのままにしておくこと。=受容
「受容」=「ネガティブな私的事象へのコントロールを捨てていく諦観的態度が重視されている。
マインドフルネスの起源=仏教における諦観の重視を受け継ぐ
「諦める」=心理学においてコーピングスキルとして研究
Feifel & Strack(1989)
- 葛藤状況に対する典型的なコーピングスタイル
“problem-solving”(問題解決)
“avoidance”(回避)
“resignation”(諦め)=ストレスフルな状況を変えようとすることなく、それに従ったり受け入れる(Feifel & Strack, 1989)
その程度を測定する Life Situations Inventory を開発している。
⇒このようなコーピング方略は主にネガティブで非適応的であると報告されてきた。
<先行研究>
「諦める」ことのネガティブな側面が報告されることが多かった
<近年の研究>
「諦め」の健康的な側面が注目を集めつつある。
「たとえ自己評価が低くても、狭義の自己受容としての「上手なあきらめ」が,自己評価に対するメタレベルでの肯定度を高く保ち、自尊心の向上に働きかける」,上田(1996,
=
自己肯定感が平均よりも低い場合でも、自尊心の向上といっても尊大といえるまで高くなることはなく、上田(1996)はこれこそが「あきらめ」の本質であると主張。
引用元:
精神的健康における適応的諦観の意義と機能 ;菅沼他,心理学研究89-3,229-239,2018
文責:タニカワ久美子
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