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感情労働という令和の働き方/ストレス研究vol.7

2022年1月5日更新

感情労働(emotional labor)という職種を、アメリカ社会学者Hochschildが定義しました

(Hochschild1983,石川他訳2003)
感情労働=労働者が感情を社会的、組織的に適切な形へと作り変える職種

肉体労働・頭脳労働に並ぶ第3の労働形態

感情労働の種類(方略)

1.対人サービスで、「適切な感情の表出のみを変化させる方略」=表層演技(surfaceacting)、Goffaman理論
2. 対援助サービスで「経験による心理的側面を適切な感情の表出へと導く方略」=深層演技(deepacting)
両者は、どちらか一方が常に用いられているわけではなく、社会環境や状況によって、また労働者のパーソナリティ特性によって導きだされる。

<先行研究>
感情労働方略について、数多くの知見はありが結果は一致していない。
原因
・感情労働方略に規定概念がHochschildが意図したものとは異なる形で展開されてきた
・研究者間で概念規定の異動があるが、詳細な議論、検討が現在に至るまでなされていない

感情労働の3つの特徴

1.対面や声による顧客との接触
2.顧客に何らかの感情変化をおこさせなければならない
3.雇用者は、研修や管理体制を通じて、労働者の感情活動をある程度支配する(Hochischild,1983)

<Hochschildのユニークポイント>
社会学者Goffman(1967,広瀬他訳1986)が感情の「表出」のみに注目していたのに対し
内面の感情の「経験}までもが、社会的に適切な形に作り変えられていることに着目した点
個人の自由だと思えている「内面の感情経験」が実は、場面や状況要因に規定されている
・規定された感情の経験「感情規則(feeling rule)」=商業的利益追求のもと、労働者の感情経験が組織によって管理されていることを明示。

感情労働の2方向の心理学的研究

1.「パフォーマンス」感情労働が、顧客のサービス評価や満足感、組織の商業的利益に与える影響…1980年代後半の感情労働研究の中心
2.「心理的側面}感情労働が、労働者のメンタルヘルスや職務満足感に与える影響…1990年代から注目が高まる

1980年代以前の先行研究
・調整変数に焦点を当てた実証研究が多い
労働者の笑顔や目配せ、あいさつ等を観察によって定量化し、同時に得られた顧客評価(サービスの質、再来店願望など)の関連性
ポジティブ感情の表出、ネガティブ感情の抑制が商業的利益を増加させるという結果

感情労働のメンタルヘルスへの影響

感情労働が、労働者に負の影響をもたらすとは言い切れない。
<研究者の疑問>
・労働者の心理的側面は、調整変数によって変化するのか?
・表層演技と深層演技では労働者の心理的側面への影響は違うのか?

調整変数に焦点を当てた研究
1.ソーシャルサポート(組織、知人など)
2.職場環境(従業員の監視、仕事の単調さなど)
3.仕事への自律性
4.個人のパーソナリティ

表層演技・深層演技に焦点を当てた研究
これまで「感情的不協和(emotional dissonance)」と言う概念が中核だった。
労働者に心理的ストレスをもたらす

感情的不協和が、バーンアウトにおいて主要な概念である情緒的消耗感と正の相関を示す傾向にある

表層演技がより労働者に心理的ストレスをもたらすと示した研究が多い。

タニカワ久美子の意図するところ
感情労働の知見の一貫しない原因が、調整変数の存在だけでなく、概念規定の不備、またそれによる本質的な視点の欠如=ストレスに起因する可能性を主張する

Hochschild理論からの概念規定の見直し
感情労働の3因子構造の適切性
1表層演技(情動制御におけるresponse modulationと同質の方略)
2深層演技(感情経験による内面努力を伴った「制御方略」)
3自発的に生ずる自然な感情
Diefendorff,Croyle&Gosserand(2005)
2と3が明確に区別されていない(e.g.,Pugh,Groth,&Henning-Thurau,2011)

Hochschildの深層演技に対する警鐘

深層演技は、「他社を欺くのと同時に自分自身を欺いてる」
自己欺瞞を持続させるような深層演技は、「ほんとうの自己」の感覚を失っていく

「ほんとうの自己」とは 崎山(2006)
職務上要請される感情経験orそれに対する抵抗の表れとして自然に感じる感情経験

本当の自分の指標はどれか?と言った問題が日常的に続くと、ストレスやバーンアウトが生じる。

※出所:感情労働研究の概観と感情労働方略の概念規定の見直し,榊原良太,東京大学大学院教育学研究科紀要(51).indb,2011

文責:タニカワ久美子
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