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ストレスチェック制度と感情労働尺度/ストレス研究vol.6
2022年1月4日更新
感情労働は、ストレスとの関連が強い
2015年に開始されたストレスチェックで推奨されている現行の職業性ストレス調査票には、感情労働に関する項目はない。
先行研究における感情労働と職業性ストレス調査票を用いた研究結果と、現行の職業性ストレス調査票の作成過程確認
ストレスチェック制度開始前に作成された新版調査票には、感情労働に関する3項目が追加されたが、項目数の多さから推奨されなかった。
Keywords:#感情労働 #ストレス #職業性ストレス簡易調査票 ス#トレスチェック制度
感情労働は、肉体労働、頭脳労働と並ぶ第三の労働
感情労働は、アメリカの社会学者ホックシールド(Hochschild)による客室乗務員を対象としたインタビュー調査結から始まった。
定義:「対象者が適切な精神状態となるよう、労働者が、その業務遂行において適切な形としての(労働者自己の)感情を誘発または抑制しながら調整すること」
感情労働の要件「感情規則」:
1. 顧客に何等かのサービスやケアなどを直接接触(音声のみの対応も含む)して提供する他者(対象者)の存在
2.サービスやケアの提供により対象者の感情を好ましい方向へ向かうように操作するため、労働者が自己感情コントロールを求められる
3.第三に労働者を雇用している経営者や組織が、労働者を教育や管理体制において、労働者の感情活動を管理的に支配する「感情管理」がある
顧客に対して怒りを感じながらもにこやかに笑顔で接するなど顧客満足を高めるパフォーマンス
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組織内で上司の命令など職務上の要求に対して自己の感情を抑制する状況であり、心理的には不満や怒り、悲しみなどの感情を感じていても「わかりました。」と相手が望む言動をとる
=Hochschildは、感情労働が対人業務のみに限定されたものではないことを示している。
表層演技:この場合の表面だけ好ましい表情や言動を創りだすこと
深層演技:望まれる感情を実際に抱けるように感情の感じ方そのものを心から表現しようとする試み=対人援助職
感情不協和:演技をする際には、自己の持つ感情を抑制するする必要があり、感じていることと感じたいこと(求められる感情)とのずれによって生じる矛盾で
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緊張と葛藤が生じるためストレス要因となりやく、頻度や強さの増加は抑うつやバーンアウトと関連することが報告されている。
日本国内で汎用されている感情労働の測定尺度
1.感情的不協和の測定が可能な代表的尺度=Zapf et al.に よ るFrankfurt Emotion Work Scales(FEWS)をもとに日本語版の感情労働尺度が荻野らにより作成されており1)、国内での実証的研究における新たな職種に対応した尺度作成への活用例も見られる6)
2.看護師の職務特性に応じた尺度=表層演技と深層演技が測定可能な看護師の感情労働測定尺度(Emotional LaborInventory for Nurses: ELIN)
看護師の感情労働測定尺度には、「表層演技」・「深層演技」に類似した「表層適応」「深層適応」と「表出抑制」「探索的理解」「ケアの実現」という5つの下位因子がある
3.コールセンター限定の感情労働的行動尺度=「感情の不協和」「顧客への表層適応」「顧客へのポジティブな感情表出」「顧客への感情への敏感さ」の4つの下位尺度で構成。
4.感情労働尺度日本語版(Emotional Labour Scales Japaneseversion:ELS-J)=Brotheridge & LeeのtheEmotional Labour Scale(ELS)の和訳。
「表層演技」・「深層演技」の頻度,強度,種類,持続時間で構成しているが、まだ作成されたばかりで引用研究はみられていない。
5.職業性ストレス簡易調査票(the Brief JobStress Questionnaire:以下BJSQ)
平成11(1999)年度労働省「作業関連疾患の予防に関する研究」において、日本の職業性ストレス集団的評価のため、カラセックのJob Content Questionnaire(JCQ)、米国国立職業安全保健研究所(National InstituteforOccupational Safety & Health:NIOSH)が作成した職業性ストレス調査票の項目を含み作成された。
構成項目は、合計57項目で構成。
2015年に開始されたストレスチェック制度では、国の推奨調査票とされている13)。ストレスチェックでは、労働者の回答しやすさを考慮し、57項目を縮小した23項目の縮小版もが推奨されているが、実施する事業場が独自のストレス調査票を用いてもよい。
1)感情労働と職業性ストレスの関連
感情労働で主軸となる表層演技や深層演技などの構成要素
コールセンター尺度の信頼性・妥当性の検証
因子分析を実施した結果
・深層適応が除外
・表出抑制も因子構造としては抽出されたもののBJSQとの関連は見いだされなかった
対象者の所属先や非正規雇用の割合の高さがと16)、対象者の選定の課題が結果に影響している。
対応業務に対するストレス対応の検討
BJSQは、感情という用語が情緒に変更され、「情緒的負担」となっている。
海外の概念の翻訳上の意図とバーンアウト尺度における「情緒的消耗」との関連が考えられる。
バーンアウトにおいて主要な概念である情緒的消耗感と感情の不協和は正の相関を示す傾向にあることから、労働者に心理的ストレスをもたらすと考えられている2
日本
顧客満足度を高めることを労働者が意識し、適切な姿勢を表現することは当然の業務として感情規制を強いてきた経緯がある
↓
職場のストレス要因を個人のレベルから組織レベルまで包括的に評価できる調査票として、海外の動向を踏まえながら新版調査票は開発されたが、項目数の多さから、ストレスチェック制度の推奨調査票にはならなかった。
課題
職種や組織の特性を反映したBJSQの改定
出所:職業性ストレス調査票におけるストレス特性としての感情労働に関する再考,松本泉美,Bulletin of Kio University16-2,59-66,2021
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文責:タニカワ久美子
本投稿文は、理解を重視し読み易くするため、出典を明記しておりません。
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