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ストレス研究ノートvol.5/バーンアウト
2022年1月2日更新
ストレスの研究視点
日本
感情労働は、バーンアウトを研究したものが多くある。しかし、
・感情労働とバーンアウトとの関連性実証されていない。
・感情労働することが燃え尽きを引き起こすかのような主張が頻繁になされるものの、経験的な検証は少ない
海外
・ほぼ否定されている。=・感情労働と精神的負担との関連は明確ではないと批判されている。
日本と海外の違いの原因
(仮説)用いられている尺度に違いがあるのではないか
・感情労働概念が複雑なものである上に,因果関係が不明なバーンアウトとの関連を実証するという前提での調査であるため,国内外ともに実証結果に一貫性が見られない
ただし職務上の過度な感情管理がストレスを生む可能性は高く、感情労働者のストレス対策は緊急の課題であることは間違いない。しかし,この点に関しても,現在のところ具体策の提案は少数。
・対人援助職は、守秘義務を要する
・負の感情表出を受け止める同僚側の共感疲労もある。
↓
バーンアウトと職場でのソーシャル・サポートの関連性。
・他者からのサポートは人の適応を促進する反面,そのような働きかけが受け手に葛藤をもたらす場合がある
<その要因>
サポートが①可視性の高いものであるとき②期待はずれなものであるとき(不足・過剰)
職場におけるストレス対策は,まず①の「可視性の高いもの」に抵触する恐れがあり、そこに明らかなサポートの意図が見られた場合は労働者は傷つきを与えられる可能性が高い。
社会の変動に伴い,個人の感情活動は複雑化し,対人関係の形も変化していることが,感情労働におけるソーシャルサポートを困難にしている。
感情管理=スキル論
感情労働は、感情管理を労働スキルととらえ,戦略的に生かす方向性での論調が盛んになってきた。
感情管理のスキルアップによる職務の効率化を提唱し、ビジネスの現場では感情管理のスキルが要請されている。
学術分野では
主に経営学や組織管理学、看護・介護領域で肯定論調が多い。
これらの論文のタイトルには,
#バーンアウト #自己疎外 #スキル #ストラテジー #戦略的行為 #職務満足感が使われる。
関谷は,21世紀は「ワーク・エンゲージメント」の時代とし,「感情労働ならではの
感情労働研究にもポジティブな視点が必要である。
感情労働は自己疎外を招くという感情労働論のネガティブな側面と,感情労働にはポジティブな側面があるという新たな理論。
感情労働論のこの二律背反的要素の考え方
感情労働そのものが危険なのではなく、感情労働をうまく行えるか否かが労働者の精神状態の良否を分けるポイントとなる。
感情労働は自律性が問題視されるが,職務遂行時に自律性が伴う場合と,他律的に感情管理をする場合とでは,精神的安定に相違が生じる。
自律性を伴う感情労働
「やりがい」や「充実感」を生み出し,労働に対するポジティブな姿勢や職務満足感を引き出す要因となる。
「暗い感情労働」疎外労働ともいえる元来の感情労働論・文明化の論における(インフォーマル化過程の前段階である)自己統御型の労働
「明るい感情労働」感情管理のスキルを駆使した自律性を推奨する新しい感情労働論・インフォーマル化理論における自律性に富む感情管理型である労働
現代社会を「行動・感情・道徳のコードが弛緩し,分化する長期的な過程」にあると位置づけ,社会的なルールは個人の判断で臨機応変に変異可能なものとなり,個人の状況判断によって自己統御が行われる新たな行動理念が生まれていることを示した。
岡原は,このようなインフォーマル化の状況下では,「ひとは一層自主的に,自分の衝動や感情を,抑制したり表現したりできるようになる。より高度の意識水準と,より高度の自己統御の水準がそこでは求められる」(2013,52)と述べている。
崎山は
感情労働論における肯定・否定の両論は,コインの裏表の関係
感情労働=ある種の感情経験の表出・保持を強制する労働形態
クライエントとの関係を肯定的なものに保った上で自己の充足感を得たいという人々の欲望 =『人と接する仕事が好き』をスキル化することによって成り立っている
↓
自己実現への希求や承認欲求とも結びつく対人関係への欲望が、自己の感情管理への傾倒を促し、加速させる
現代社会での感情管理スキルの重要性
感情労働の現場は膨張化⇒労働者は何らかの形でこの労働形態に携わっている⇒スキルを磨くことで職務上のメリットが得られる。
<感情労働をスキルとして扱う論文>
感情労働≠ emotional labour (社会学的なニュアンスを含む)
感情労働=emotion work (より知的な要素を含みそのものを目的とするような労働を連想させるとしている)
<感情労働の構成因子>
#感情管理 #対人コミュニケーション能力 IQではなく#EIの獲得
↓
人材育成の理想型として標準化されていく
実際に採用時に EI を測定するとされている EQ検査を実施したり,EI を伸ばす研修を行う雇用組織もある。現代の雇用組織は,自律性に富み感情管
理が得意な「明るい感情労働者」を求めているのである。
看護師の精神的負担軽減のため
感情規則の提示・指導・同調性を組織が明確化=感情の組織的管理によるポジティブ効果=感情労働肯定論
感情労働者=雇用組織による感情管理統制であるにも関わらず,そこに悲壮感はない
対人援助職=顧客との感情の相互行為には際限はなく,そのことによる「巻き込まれ」や「共感疲労」といった精神的負担は多い。それ故,職務との適切な距離感の設定,感情管理の質的・量的バランス等の考察がこれまでの焦点であった。しかし,この提案は,最初から上限を設定された感情規則に従い,それ以上の感情労働は行わないという労働者の意思表示であるといえる。確かにこの対策が確立すれば,感情労働者のメンタルヘルス問題の多くは解決するだろう。
<根本的な疑問>
対人援助職において自ら感情のあり方を規定してほしいと雇用組織による感情管理の強制
<感情管理の対語>
#自己中 #KY #コミュ障 #ぼっち
常に自己を押し隠し,他者を意識して生きねばならない現代の感情管理者の悲哀の若者の姿が浮かび上がる。
感情というものを取り扱いかねる現況の打開策
↓
自己の感情を切り取り、放棄するということが感情労働の現場で生き抜くための、“疎外に対する抵抗”や“感情管理の積極的活用”でもない「第三の感情労働者」
『管理される心』の訳者であり社会学者でもある石川は,感情労働問題に対する処方として,「時代のニーズに答えるものはカウンセリングの方であって,感情社会学的言説は,人々の傷に塩を擦り込むような行為」かもしれない
感情労働の受容のまなざし
感情は商品価値を有するものである。しかしそれは,社会的出自により保有の有無が決定されるという可能性の中に存在し,加えてそれは数値化され,選別され,階層社会に固定化されていく危険性を秘めている。
ホックシールドが問題化した「個人の感情が売買される社会」構造そのものを前提として踏み出さなければ,問題の根本的解決策は見いだせないはずである
感情労働を成立させる社会構造を分析することは、現いじめやひきこもり,無縁社会,さらには格差社会等を考える一手段となり得るだろう。
地縁血縁で結ばれたコミュニティーが崩壊し,個人がアトム化し孤立化した今こそ,感情管理スキルで自己の周囲を武装するのではなく,ほんの少しでもバリケードを崩し,自己を取り囲むものへと「受容のまなざし」を拡大することが大きな意味を持つはずである
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文責:タニカワ久美子
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