ストレス研究memo
タニカワ久美子のストレス管理研究Vol.167ストレスの歴史
2024年11月17日更新
こんにちは、けんこう総研のタニカワ久美子です。
今日は「感情の生成過程」について、歴史的な背景から最新の研究までを振り返り、わかりやすくお話ししたいと思います。
感情の生成過程を解き明かす・歴史的な背景と現代の理解
感情は日々の生活や健康に深く関わっているものですから、その生成過程を知ることはとても大切です。
古代から中世まで~感情の神秘的な見方~
感情という概念は、実は古代ギリシャ人の時代からありました。
当時は宗教や教会の教えが人々の感情を規定していました。例えば、「精霊がとりついた」や「邪悪な超自然力の影響」といった神学的な考え方が、感情の起源を説明するために使われていたのです。
中世に入ると、さらに複雑な事情が絡んできました。教会法では人の死後の「検死」が禁じられていたため、脳や身体の構造についての科学的な研究は行われませんでした。科学が感情を解明するための一歩を踏み出すまでには、まだ多くの時間が必要だったのです。
解剖学と脳研究の進展:19世紀の大きな一歩
19世紀になると、ようやく人間の解剖学が発展し始めました。教会による規則が緩和され、医師たちは検死を行うことで人体の詳細な観察ができるようになりました。脳卒中や腫瘍といった病理現象に関する研究を通じて、脳の損傷が感情や行動にどのように影響するのかが徐々に明らかになっていきました。
例えば、視覚皮質に損傷があると視覚異常が起きることが分かり、そのエリアが視覚機能とつながっている証拠とされました。また、眼窩前頭皮質の損傷によって恐怖反応や感情制御の障害が見られることもわかってきました。これらの研究が、感情の生成と脳の構造との関連性を理解するための基礎となったのです。
「ダ・コスタ症候群」とストレス研究の始まり
感情とストレスの関連を深く探るためには、「ダ・コスタ症候群」についてふれないわけにはいきません。アメリカ南北戦争中に、医師のダ・コスタ氏は、戦闘を経験した兵士たちが短期的な興奮や心拍増加といった症状を示すことを発見しました。これが後に「ダ・コスタ症候群」と呼ばれる症状です。この発見は、ストレスが身体に及ぼす影響について初めて科学的に認識された瞬間でした。
ストレスによって生じる生理的な変化は、神経ホルモン・システムや神経生物学システムに起因しています。これは現在でも多くの研究が行われている分野で、感情やストレス反応の解明において重要な役割を果たしています。
精神医学の発展とクレペリンの功績
19世紀後半、精神医学が本格的に発展を遂げ始めました。スイス人神経精神科医のクレペリン氏は、統合失調症と診断された患者の脳を検査し、症状が脳に由来する可能性を探りました。彼の研究は、感情や精神疾患が脳の構造や機能と深く関連していることを示す重要な証拠の一つとなりました。
また、クレペリン氏は「シュレック・ノイローゼ」という極端なストレスが引き起こす症状についても記述しています。これは、大きな驚愕や恐怖によって生じる一連の精神的・神経的症状で、特に事故や火災といった衝撃的な出来事の後に見られます。この記述により、感情と外的要因の結びつきがさらに深く理解されるようになりました。
フロイトと感情のトラウマ理論
精神分析学の父として知られるフロイトも、感情の生成過程において重要な役割を果たしました。彼はヒステリーの現象を脳の生理的攪乱が原因であると捉え、患者のトラウマ経験が神経生物学的な変化を引き起こしていると考えました。フロイトの研究は、現代のトラウマとメンタルヘルスの理解につながっています。
特に第一次世界大戦を経て、戦争によるトラウマが心身に与える影響が注目されるようになりました。これが現代の「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の概念へと発展し、感情の生成と脳の生理的変化との結びつきに新たな視点を提供しました。
まとめ・感情理解の進化
感情の生成過程についての理解は、長い歴史を経てここまで来ました。古代から中世の神秘的な考え方から、現代の科学的なアプローチまで、感情と脳、そしてストレスの関連は多くの研究者たちによって解き明かされてきました。私たちが日々感じる喜びや悲しみ、怒りは、脳の中で複雑に織りなされる生理的な現象なのです。
このようにして、感情の生成過程についての理解が進んできたのです。
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