ストレス研究memo
ストレス研究Vol.133インターオセプションによる新たな視点
2024年9月16日更新
今日2024年4月に発表されたばかりの最新論文をご紹介します。この論文は、ウエアラブルデバイスや自己追跡技術の新しい視点を提供しています。論文のタイトルは「心拍を感じる:インターオセプションの統合による自己追跡技術に関する新たな視点」で、デジタル技術が健康管理に与える影響について詳しく解説されています。
それでは要約(アブストラクト)から、ストレス研究者のタニカワが、一つ一つ噛み砕いて解説していきます。
フィットネストラッカーとインターオセプション
フィットネストラッカーは、装着者が運動、健康、ウェルビーイングを監視・最適化するためにますます使われています。
体内のプロセスを感じ取る「インターオセプション」(内受容感覚)が、身体データの解釈や習慣形成において果たす役割までは、考慮されていません。
この論文は、神経科学的研究、プラグマティスト哲学の視点、および科学技術研究を自己追跡デバイスの分析に取り入れて、インターオセプションが自己追跡の実践にどのように関与しているかが書いています。
自己追跡デバイスつまり、ウエアラブルデバイスのことですね。そのデバイスを通じたインターオセプションへの意識についての説明が書かれています。追跡デバイスを通じた身体プロセスや活動の媒介にインターオセプションがどのように関わっているかに注目することで、自己追跡が身体的かつ感情的な実践としての新たな洞察を得られると提案します。
2007年「クオンティファイド・セルフ(QS)」運動の始まり
「クオンティファイド・セルフ(Quantified Self, QS)」運動は、SNS自体に特化した運動ではありません。
QSは、デジタル技術や自己追跡(セルフトラッキング)を活用することに大きく関連しています。
QS運動とは、個人がデジタルデバイス(スマートウォッチやスマートフォンなど)を使って自分の健康や生活に関するデータを収集し、それを分析して自己改善や習慣形成に役立てることを推進するもので、SNS上でデータや成果を共有することも含まれます。
QSは、主に自己測定や健康管理に焦点を当ててます。SNSはそのデータを共有・交流するプラットフォームとして機能することが多いですが、SNSそのものがQS運動の中心というわけではありません。
この「定量化された自己」の考えに基づく自己のモニタリングは、スマートフォン、スマートウォッチ、インテリジェントリストバンドといった自己追跡を可能にする個人向けデジタル技術の開発やマーケティングにつながっています(Wac and Wulfovich, 2022)。
これらのデバイスは健康的な習慣を促進する手段として賞賛されていますが、習慣形成に対するその影響は依然として議論の的となっています。さらに、Desiree Foerster研究によると氏のこの研究によると、自己追跡デバイスの使用は身体への不満や否定的な身体イメージにつながるとまで書かれています(Attig and Franke, 2019; Boldi and Rapp, 2022; Sharon, 2017)。
また、クオンティファイド・セルフ(Quantified Self, QSのデバイスによって提供される画像や測定データが、身体の個人の意志や主体性が無視されて客体化を促進することも明らかにされています(Quinn-Nilas et al., 2016)。
自己追跡デバイスと身体の客体化
ウェアラブルデバイスによって身体の詳細を記録・監視・測定する新たな機会は、メディア学者にとっても新たな問題提起をもたらし、身体と技術のアンサンブルの概念(Lupton, 2016)やデータに対する価値付与(Sharon and Zandbergen, 2017)などの議論を引き起こしています。自己追跡が我々の自己や身体との関係に与える影響については、二つの主要な視点があります。一方では、フォーカルディアンの管理装置の枠組みの中で、自己追跡が監視と規制の道具とみなされる一方、もう一つの視点では、技術との新たな関係性を促進する「人間を超えたアンサンブル」の一部とみなされています。この文脈では、自己追跡は「動的な社会技術的配置」(Bode and Kristensen, 2015: 18)を引き起こし、身体、技術、自己の複雑な相互作用を創り出しています(Lupton, 2016)。
明日の予告
この論文の続きについては、明日さらに掘り下げて解説します。インターオセプションが身体プロセスにどのように影響を与えるか、そしてそれがストレスや感情調整にどのように役立つのかについて、詳しくご紹介する予定です。お楽しみに!