ストレス研究memo
ストレス管理戦略Vol.123最新研究が示すモニタリングの重要性
2024年8月9日更新
こんにちは、けんこう総研のタニカワ久美子です。ほぼ毎日、ストレスについて書かれた研究論文を精査しています。この最新の知見が書かれた世界中の膨大な研究論文を、組織企業の現場に適するように咀嚼して、嚙み砕いて具現化していくことがけんこう総研代表である私の使命だと考えています。
そんなわけで皆さまにすぐにでも使えるように、日進月歩しているストレス研究の今をブログでお届けしています。
今日の記事は、2020年に発表された大学生アスリートのストレス管理: 最新研究が示すモニタリングの重要性についての解説です。
「Stress in Academic and Athletic Performance in Collegiate Athletes: A Narrative Review of Sources and Monitoring Strategies」は、大学生アスリートの学業および競技パフォーマンスにおけるストレスの源と、そのモニタリング手法について検討した研究論文です。以下に、この論文における調査対象者、研究方法、考察、そしてこの研究の限界点と展望について解説します。
※参考文献※オンラインで原著論文が読めます
Stress in Academic and Athletic Performance in Collegiate Athletes: A Narrative Review of Sources and Monitoring Strategies
調査対象者
この論文の調査対象者は、大学生アスリートです。大学生たちは、学業、社会的な関係、そして経済的な負担など、さまざまなストレスに直面しています。中でも、大学生アスリートはさらに、練習や試合に多くの時間を割く必要があり、一般の大学生に比べて特有のストレスを抱えています。これらのストレス要因が、競技パフォーマンスだけでなく、学業成績や心理的健康にも影響を及ぼす可能性があることも示唆されています。
研究方法
この論文では、文献レビューの形式をとっています。文献レビューとは、既存の研究をもとに大学生アスリートにおけるストレスの源を整理することです。また、ストレスを早期に発見するためのモニタリング手法についても検討しています。とくに、ストレスの影響をモニタリングするための主観的および客観的な測定方法の有効性を比較し、これらがどのように組み合わされるべきかを論じています。
主観的測定方法と、客観的な測定方法の有効性を比較すのに、この研究では4つの手法を用いました。
主観的測定方法
主観的測定方法は、アスリート自身の感覚や感情に基づく自己報告を使用します。
・自己評価アンケート: アスリートが自らのストレスレベルや疲労感、心理的な負担を評価するアンケートを定期的に実施。
・主観的疲労評価(RPE: Rate of Perceived Exertion): アスリートがトレーニングや試合後に感じる疲労度を自ら評価する手法。
客観的測定方法
客観的測定方法は、外部の観測可能なデータや生理的な指標を用いてストレスを評価します。
・心拍変動(HRV: Heart Rate Variability): 心拍数の変動を計測することで、交感神経と副交感神経のバランスを評価し、ストレスレベルを推定します。
・コルチゾールレベルの測定: 唾液や血液中のコルチゾール濃度を測定することで、身体のストレス反応を評価します。
有効性の比較と組み合わせ
この論文では、主観的測定方法と客観的測定方法のそれぞれの強みと限界について論じています。
主観的測定のメリット
:個々のアスリートの感覚に基づくため、個別のストレス反応を迅速に把握できる
主観的測定のデメリット
:感情の揺れやバイアスの影響を受けやすい。
客観的測定のメリット
:データに基づくため信頼性が高い
客観的測定のデメリット
:リアルタイムでのフィードバックが難しく、コストがかかる場合がある。
この論文では、両者を組み合わせることで、より包括的かつ正確なストレスモニタリングが可能になると結論づけています。
定期的な主観的評価を基に、必要に応じて客観的測定を追加することで、個々のアスリートのストレスレベルを多面的に評価する手法を推奨しています。これにより、ストレスが蓄積される前に適切な介入が可能となり、パフォーマンスの維持および向上が目指せます。
このように主観的および客観的な測定方法を効果的に組み合わせることが、ストレス管理の鍵です。
考察
大学生アスリートにとって、ストレスのモニタリングはパフォーマンス向上やメンタルヘルスの維持において重要な役割を果たします。特に、ストレスが長期的に蓄積すると、心理的な障害や競技パフォーマンスの低下につながる可能性があり、そのために効果的なストレス管理戦略の開発が必要です。さらに、アスリートに対して適切なフィードバックを行い、トレーニングプログラムを個別に調整することの重要性が指摘されています。
研究の限界点と展望
この研究の限界点としては、レビューの対象となる文献が限られており、また主観的なストレス評価の一貫性に課題があることが挙げられます。さらに、ストレスの影響を評価する際には、アスリート個人の特性や外部環境の影響も考慮する必要があり、その点においてさらなる研究が必要です。
今後の展望としては、より包括的なストレス評価システムの開発が求められます。特に、技術の進展により、ウェアラブルデバイスなどを用いたリアルタイムのストレスモニタリングが可能になってきており、これを活用した研究が期待されます。また、異なる競技や性別、文化的背景を持つアスリート間でのストレスの違いを検討することで、より精密なストレス管理戦略の策定が可能になるでしょう。
パリオリンピックも真っただ中!今後のオリンピアンを選出するためにも大学生アスリートのストレス管理に関する研究より重要となってくるでしょう。スポーツ科学およびメンタルヘルスの両面から非常に重要なテーマであり、今後も多くの研究が進められることが期待されます。