ストレス研究memo
ストレスチェック制度と企業の役割/エスピン-アンデルセンの理論に基づくメンタルヘルス対策の考察vol.101
2024年7月13日更新
けんこう総研のタニカワです。今回は、福祉国家の理論を提唱した社会政策学者、イエスタ・エスピン-アンデルセンの理論に基づいて、日本のストレスチェック制度と企業の役割について考察します。
ストレスチェック制度と企業の役割:エスピン-アンデルセンの理論に基づくメンタルヘルス対策の考察
ストレスチェック制度の概要
2015年12月より労働安全衛生法の改正に伴い、従業員50人以上の事業所に対して年に1回のストレスチェックの実施が義務付けられたことはけんこう総研ブログの読者に皆さまでしたらご存知でしょう。
このストレスチェック制度は、従業員のメンタルヘルスを早期に発見し、予防することを目的としています。
福祉レジーム理論と日本の位置づけ
エスピン-アンデルセンの理論では、福祉国家は自由主義レジーム、保守主義レジーム、社会民主主義レジームの三つに分類されます。日本のストレスチェック制度と企業の位置づけを、これらのレジームに照らし合わせてみましょう。
1.自由主義レジーム
自由主義レジームでは、個人の責任と市場メカニズムが強調されます。
日本のメンタルヘルス対策においては、個人の自己責任が重視される傾向があります。企業は最小限の義務を果たすだけに留まり、市場によるカウンセリングサービスやメンタルヘルス関連の商品が普及しています。
2.保守主義レジーム
保守主義レジームでは、家族や職場、社会的地位が重視されます。
日本では、企業が従業員の健康管理を担当し、ストレスチェック制度を導入することが義務付けられています。ストレスチェック制度は、保守主義レジームの特徴である職業ベースの福祉制度に近いものです。家族や職場の支援もメンタルヘルスケアにおいて重要な役割を果たします。
3.社会民主主義レジーム
社会民主主義レジームでは、普遍的な社会保障と高い水準の福祉サービスが提供されます。
日本のストレスチェック制度は、全従業員を対象としており、ある程度の普遍性を持っています。国家や企業が積極的に関与し、公衆衛生としてのメンタルヘルスサービスが提供されていると言えるでしょう。
メンタルヘルス対策における三主体の役割
エスピン-アンデルセンの理論を元に、メンタルヘルス対策における個人、組織、市場の三主体の役割と関係性を以下に示します。
個人
自己認識とセルフケアが重要です。ストレスチェック制度を通じて自身のメンタルヘルス状態を把握することが求められます。個人が自主的にカウンセリングやメンタルヘルス関連のサービスを利用することが奨励されます。
組織(企業)
企業は、従業員のメンタルヘルスを支援する義務があり、ストレスチェック制度の実施を通じて、従業員の健康管理を行います。企業内でのメンタルヘルス対策(例:カウンセリング、メンタルヘルス研修、職場環境の改善)を積極的に実施し、組織文化としてメンタルヘルスに対するオープンなコミュニケーションと支援を促進します。
市場
市場は、メンタルヘルス関連のサービス(カウンセリング、セラピー、自己啓発プログラム)を提供し、個人や企業が利用できる機会を多く提供します。市場の競争を通じて、より質の高いメンタルヘルスサービスが提供されます。健康保険や福利厚生プランの一部として、メンタルヘルスケアサービスを利用している組織・企業が多数あります。
エスピン-アンデルセンの福祉レジーム理論を用いることで、日本のストレスチェック制度と企業の位置づけを、自由主義、保守主義、社会民主主義の各レジームに照らし合わせて理解することができます。メンタルヘルス対策において、個人、組織、市場の三主体がそれぞれの役割を果たしつつ、相互に補完し合うことが重要です。個人のセルフケア意識を高め、企業が積極的に支援し、市場が質の高いサービスを提供することで、効果的なメンタルヘルスケアが実現されると考えます。
けんこう総研は、今後も企業のメンタルヘルス対策を支援し、従業員の健康と安全を守るために尽力してまいります。