ストレス研究memo
運動がどうやって心理的ストレスに影響を及ぼすか
2023年6月16日更新
こんにちは、けんこう総研代表講師のタニカワです。今日は、一昨日、昨日とお話してきた先行研究のいよいよ総まとめです。お忙しい方はここだけを読めば運動とストレスの事が少しご理解できると思います。
運動がどうやって心理的ストレスに影響を及ぼすか
この研究では、運動がどうやって私たちの気持ちに影響を及ぼすかについて調べています。最初に、運動の前後でどのように気分が変わるかを測るための質問紙を使いました。しかし、運動の前後で気分が大きく変わることは見られませんでした。これは、質問紙がいくつもの感情を一度に測ってしまうため、それぞれの感情の変化を正確に捉えることが難しいからかもしれません。
運動の前後で「不安」の程度がどう変わるか
そこで、次に、「不安」に焦点を当てた別の質問紙を使ってみました。不安は、一時的なものと、人の性格によるものの二つに分けられます。この新しい質問紙で、運動の前後で「不安」の程度がどう変わるかを調べました。結果、運動の前後で「不安」の程度がほとんど変わらないことがわかりました。これは、人それぞれの不安の程度が運動によって安定していると解釈できます。
運動とストレス反応の関係
さらに、運動とストレス反応の関係も調べました。ストレスが高まると、体内の一部の化学物質(α-アミラーゼとコルチゾール)の量が変わります。運動をした人たちの中には、「不安」が減った人と、「不安」が増えた人がいました。しかし、どちらの人たちも、α-アミラーゼとコルチゾールの量は運動の前後であまり変わりませんでした。
これらの結果から、運動は不安を減らす効果がある可能性があります。しかし、不安を減らす効果は人それぞれで、また体の化学物質の変化とは必ずしも連動しないようです。運動がどのように心理状態に影響を与えるのかについては、まだまだ多くの研究が必要です。
まとめ
運動をすると体はエネルギーを使い、そのエネルギーの元である糖分(血糖)が減ります。しかし、運動がストレスとして働くと、体は「コルチゾール」と「カテコラミン」なるものを出して、糖分を作ります。それで、血糖がまた増え、その糖分は体の細胞に戻ります。
この働いは、言い換えると、ストレスを抱えている人がストレス解消として運動をすると、時に逆効果として太ってしまうことも考えられます。
このとき、「DHEA」という物質が糖分を使って作られます。だから、血糖が増えるとDHEAも増えると考えられます。しかし、運動直後は、筋肉が壊れて再生するためにDHEAを消費するので、DHEAが減ると考えられます。
さらに、私たちの体にはストレス反応で「SIgA」という物質が増えることが知られています。この研究でも、安心した人たちの中にはSIgAが少し増えた人がいました。でも、一方で不安が増えた人たちや不安が減った人たちでは、SIgAが減った人がいました。
不安やストレスがあると、「CgA」という物質も出ます。この研究では、不安が減った人たちでCgAが減ったことがわかりました。これは、ストレスが減ってCgAも減ったと思われます。しかし、CgAについてはまだわからないことが多く、これを調べるためにはもっと研究が必要です。
運動をすると、特定の細胞(CD69陽性細胞)が増えることもわかりました。しかし、運動を終えて3時間後には元の数に戻っていました。これは、運動による細胞の活性化は一時的なもので、これが必ずしも体にとって良いことではないかもしれないと考えられます。
<ストレスにより分泌される物質>
・コルチゾール
・カテコラミン
・SIgA
・CgA
この研究から、運動による体の反応は運動の強度だけでなく、運動前後の心の状態にも影響されることがわかりました。ただ、この研究では参加者が11人しかいなかったので、もっとたくさんの人を対象に調査を行う必要があると思います。
この先行研究で引用された文献
1.Linde F.「ランニングと上気道感染」、北欧スポーツ科学雑誌、1987年; 9:121-23.
2.MacKinnon LT, Ginn EM, Seymour GJ.「エリートアスリートにおける唾液中IgAの減少と上気道感染との時間的関連性」、オーストラリア科学医療スポーツ
雑誌、1993年; 25:94-99.
3.Nieman DC, Johanssen LM, Lee JW, Arabatzis K.「ロサンゼルスマラソン前後のランナーの感染エピソード」、スポーツ医療物理療法雑誌、1990年;
30:316-328.
4.Peters EM.「運動、免疫学、上気道感染」、国際スポーツ医療雑誌、1997年:76: S69-S77.
5.Linde B, Sjöberg NO, Freyschuss U, Juhlin-Dannfelt A.「精神的ストレス中の脂肪組織と骨格筋の血流」、アメリカ生理学雑誌、1989年1月;
256 (1 Pt 1):E12-8.