ストレス研究memo
ソーシャルワーカーの感情規則の特徴/ストレス研究memo
2023年1月22日更新
こんばんは、ソーシャルワーカーという職業において感情規則が養成課程においてどのように教育されているのか、その特徴を札幌学院大学の桜井氏の論文ソーシャルワーカーの養成課程における感情規則の特徴でつまびらかにしたいと思います。
対人援助職とはコミュニケーションが主たる業務の職業
退陣援助職とは、人々とのコミュニケーションが欠かせなません。常に自分の感情だけでなく、他人の感情にどういうふうに対処してよいかという問題に直面しています対人援助職は、クライエントをはじめとする他者との関係が築かれなければ業務が不可能です。そのため、コミュニケーションによって関係を日々構築することが基盤となっています。
コミュニケーションは、人間関係で生じる「すべての対面的な相互作用は感情的である」とターナー氏が指摘しています。感情を必ず伴う職業は、人の認知や判断は感情によって左右されます。そのため感情の取り扱いによって関係性も変化します。だから対人援助職にとって、感情を適切に取り扱うことは、その職務に不可欠な要素です。
しばしば情緒的な過度の負担になるものとして、感情の取り扱いの困難性が指摘されています。職務として感情を取り扱うことを、感情労働の提唱者であるホックシールド博士Hochschild(1983)は「感情労働」と名付けました。感情労働は,文化や経験によって「望ましい」とされる「感情規則」があります。それと実際に感じている感情との差が生じたときに、自己の感情や表現を操作する「感情管理」が行われるとされますHochschild1983)。これによると、対人援助職は「感情規則」に依拠して「感情管理」を行い、人々へ働きかけていると言えますが、職種によって固有の文化を持ち、経験する職務も異なります。「感情規則」は職種によって当然異なります。同じ職種でも日本では、看護職において職務上課せられる合理性と好意的な心的状態を保ち、患者との関係を形成していこうという感情規則の意識が働いています(三井,2006)
教職では、負の感情を含む自身の情動を意図的に表出することで有効な指導スキルとしていることがすでに明らかにされ(Hosotani& Imai 2011)感情労働自体が重
要な専門的技能の一つとして捉えられています。。
対人援助職であるソーシャルワーカーは、クライエントへの直接的な働きかけだけではなく、人間関係への良好な関係づくりが本業である職業です。ソーシャルワーカーの感情労働は、AIには決して代替えががきかない重要な専門的技能であると考えられます。南(2015)
「共感,受容しつつじっくりと傾聴しながらニーズを探っていく、ソーシャルワーカーがクライエントと援助関係を取り結ぶ際の原則」があるとしていることから推察する
と、ソーシャルワーカーは共感や受容といった感情規則に基づき実践を行っていると考えられます。
半面、ソーシャルワーカーの感情原則について、「いい人」と称される非現実的な理想像を追求するようなものであるとして、専門教育の現状について疑問を投げかけ、ソーシャルワーカーはその成長過程において理想像の体現を目指すことについて限界を感じるようになることを指摘されています。また,松田・南(2016)は,クライエントや家族などから「自己の専門性が否定されたような気持になる傷つき体験」などの情緒の消耗があることも指摘しています。
ソーシャルワーカーが、過度の情緒の消耗に陥るのは、共感や受容を原則とした感情規則が実践にそぐわず,結果としてソーシャルワーカーを疲弊させていると推測されるという論評もあります。横山(2008),松田・南(2016)も共に、実践においては、共感や受容が困難な場面も想定されるため、「いい人」という理想像に縛られることによって、ソーシャルワーカーが疲弊していく可能性について述べています。
実際のところ、ソーシャルワークにおける感情規則について捉えることは容易ではありません。ソーシャルワークにおいて重視される「共感」という原則についてDecety& Ickes(2009)想定される他者の感情を知る方法や他者の感情に自己が反応する原因によって、様々な「共感」が考えられるが、これまでの研究ではソーシャルワーカーが具体的にどのような共感を想定しているかについては触れられていません。共感は「他者の内的状態(思考と感情を含めて)を知ること」や「他者が感じているような感情を抱くこと」など様々な概念が存在しているため、どの共感を想定しているかが問題となるのかが根本的な疑問点です。また、共感や受容を感情規則として、ソーシャルワーカーが実際に想定しているかについても確証はありません。感情規則についてどのような教育がなさ、、実践で想定されてきたかについて明らかにする必要があります。「いい人」から脱却するためには、ソーシャルワーカーの養成課程における感情規則の特徴を明らかにしていきたい。
上記、論文の目的を抜粋してまいりました。
追伸
今日、明らかに非番であろう消防署員が、署内駐車場で筋力トレーニングをしているのを見かけました。彼らも感情労働の深層演技の最たる姿でしょう。「えっ?!自主筋トレのどこがいけないの?」と疑問に思われた方は無理もありません。その理由は、講演か機会があればこのブログでお話したいと存じます。