所沢市役所にて、介護職を対象とした「感情労働とストレス管理」をテーマとする研修を実施しました。
介護の仕事では、利用者や家族の気持ちを受け止めながら、自分自身の感情も調整して働く場面が多くあります。
今回の研修では、単に「ストレスを減らす方法」を学ぶのではなく、
自分の感情、相手の感情、職員個人が担うこと、職場として担うことを分けて考える
ことを中心に扱いました。
研修終了後には13名からアンケートを回収しました。
選択式の評価だけでなく、自由記述からも、
「分ける」「背負いすぎない」「受け止めることと背負うことは違う」
といった共通した認識が確認されました。
実施日:2026年9月15日
導入背景
介護職は、利用者や家族の気持ちを受け止めながら、自分自身の感情を調整して仕事を続ける「感情労働」の割合が高い仕事です。
私がこれまで介護職の方々を対象に研修を行う中で感じてきたのは、
ストレスそのものだけでなく、
「相手の気持ちをどこまで自分が引き受けるのか」
「職員個人が担うことと、職場として担うことをどう分けるのか」
が曖昧になることで、負担を抱え込んでしまうケースがあることです。
特に介護の仕事では、利用者のために真剣に働こうとする職員ほど、
相手の感情や問題まで自分の責任として受け止めてしまうことがあります。
しかし、利用者の気持ちを受け止めることと、
その感情や問題まですべて自分が背負うことは同じではありません。
そこで今回の所沢市役所での研修では、
ストレスへの対処法だけを伝えるのではなく、
介護職特有の感情労働を理解したうえで、
自分と相手、個人と職場、受け止めることと背負うことを分けて考える
ことを中心テーマとしました。
研修設計
今回の研修では、知識を一方的に説明する講義形式だけではなく、
受講者自身が日頃の仕事を振り返りながら、
感情労働による負担を整理できる構成にしました。
研修の中心に置いたのが、
「気づく・分ける・戻る」
という考え方です。
まず、自分の中で起きている感情や疲れに気づきます。
次に、相手の感情と自分の感情、
職員個人が担うことと職場が担うことを分けて考えます。
そして、必要以上に背負い込んでいることに気づいたときには、
自分自身の仕事や生活へ戻ることを考えます。
この流れを、説明だけで理解するのではなく、
グループワークや自分自身への問いかけを通して確認しました。
また、ストレス対策を
「我慢する」「前向きに考える」
といった抽象的な方法で終わらせず、
深呼吸する、仕事を翌日に持ち越さない、
「何とかなる」「今日もお疲れさま」と自分自身に声をかけるなど、
受講者自身が翌日から実行できる行動へ落とし込むこと
を重視しました。
介護職のストレス管理では、
知識を知っているだけでは職場での行動は変わりません。
そのため今回の研修では、
「研修で何を知ったか」だけではなく、
「明日から自分は何をするか」まで受講者自身の言葉で決めてもらうこと
を研修設計の一部としました。
実施内容
研修では、介護職が日常的に行っている感情労働について整理したうえで、
利用者や家族の感情を受け止めることと、
自分自身がその感情まで抱え込むことの違いについて考えました。
特に時間をかけたのが、
「自分と相手」「職員個人と職場」「受け止めることと背負うこと」を分けて考えること
です。
グループワークでは、
同じ介護の仕事をしていても、
ストレスを感じる場面や受け止め方が一人ひとり異なることを共有しました。
講師から正解を提示するだけではなく、
他の参加者の考えを聞きながら、
自分自身の考え方や仕事の抱え方を客観的に振り返れるよう進行しました。
また、ストレス反応が強くなったときに自分自身を落ち着かせる方法として、
呼吸、セルフトーク、仕事と私生活の切り替えなど、
日常の仕事の中で実践できる方法も扱いました。
私が今回の研修で特に重視したのは、
「利用者のために真剣に仕事をすること」と
「すべてを自分一人で背負うこと」を同じにしないこと
です。
介護現場では責任感の強い職員ほど、
自分が引き受ける範囲を広げてしまうことがあります。
そこで、
「これは自分が対応することなのか」
「職場として共有することなのか」
「相手の感情まで自分が背負っていないか」
と立ち止まって考えられるよう、
現場で使える判断の仕方を扱いました。
成果・実施後の変化
研修終了後、13名からアンケートを回収しました。
感情労働への理解は13名全員で深まりました
「介護職は感情を使って働く仕事=感情労働であることへの理解」については、
13名全員が
「とても深まった」「深まった」「少し深まった」
のいずれかを回答しました。
このうち9名が
「とても深まった」「深まった」
と回答しています。
仕事で感じる「しんどさ」の見方にも変化がありました
「仕事で感じる『しんどさ』の見方に変化がありましたか」
という質問についても、
13名全員が
「かなりあった」「あった」「少しあった」
のいずれかを回答しました。
そのうち9名が
「かなりあった」「あった」
と回答しています。
自由記述では「分ける」「背負わない」という言葉が繰り返されました
「今回の研修で特に印象に残った説明・言葉・ワーク」を自由記述で尋ねたところ、
内容を判定できた10件のうち9件に、
「分ける・仕分ける・区別する」
または
「必要以上に背負わない」
という、感情や責任の境界に関する内容が見られました。
掲載許可をいただいた回答には、次のような言葉がありました。
「職場として請け負うことと、職員として請け負うこと」
「必要以上に背負わないこと」
「客観的な仕事の取り組みが大切。受け止めることと背負うことは違う」
「自分の感情をコントロールして相手の感情を導く仕事。総てを背負う必要はない」
一人の受講者だけではなく、
複数の受講者がそれぞれ異なる表現で
「分けること」「背負いすぎないこと」を記述していた点は、
今回の研修で重視した内容がどのように受け止められたかを見るうえで重要な結果でした。
12名が「明日からすること」を具体的な行動として記述
「明日から意識してやってみようと思うこと」では、
設問に沿った有効記述12件すべてに具体的な行動が書かれていました。
内容は、
深呼吸する、
仕事を翌日に持ち越さない、
一人で考え込まない、
「何とかなる」と自分自身に声をかける、
「お疲れさま」と自分を労う、
書き出して整理するなどです。
掲載許可をいただいた回答には、
次のような記述がありました。
「まいっか。深呼吸。気持ちの切り替え」
「次の日に持ち越さない。どうにかなると思う事大切。」
「朝:何とかなる。夕:お疲れ様と自分に言ってあげる」
研修で知識を得ただけではなく、
自分の場合は明日から何をするのかまで受講者自身の言葉に置き換えられていた
ことが、自由記述から確認できました。
受講者自身は、この研修をどう捉えたのか
「この研修を、同じ介護の仕事をしている人に説明するとしたら、
どんな研修だったと伝えますか」
という質問でも、
今回の研修の特徴が表れました。
掲載許可をいただいた回答には、次のような記述がありました。
「自分が楽になって仕事が続けられる」
「介護職として受け持つことと、職場として受け持つことを分離する、分け合う。」
「感情労働を理解する事」
「疲れをため込まないための研修」
「すごく気持ちが楽になり学びになる研修」
今回のアンケート結果から、
受講者が「感情労働」という言葉を知っただけではなく、
自分・相手・職場の責任を分け、
必要以上に背負わないという考え方を、
自分自身の行動へ置き換えていたこと
が確認できました。
アンケート結果について
本ページに掲載している結果は、
研修終了直後に実施した13名のアンケートをもとにしています。
そのため、
長期的なストレス軽減、
離職率の変化、
職場全体の行動変容などを測定した結果ではありません。
本事例では、
研修直後に確認できた
「感情労働への理解」「仕事の捉え方の変化」「翌日からの行動意図」
として掲載しています。
介護職の感情労働を「個人の我慢」で終わらせないために
今回の研修で自由記述に繰り返し現れたのは、
「もっと頑張る」という言葉ではありませんでした。
「分ける」
「背負わない」
「受け止めることと背負うことは違う」
という言葉でした。
介護職のストレス管理では、
職員本人のセルフケアだけに対策を任せるのではなく、
どこまでを個人が担い、
どこからを職場として共有するのかを整理することも重要です。
けんこう総研では、
感情労働、職場ストレス、ラインケアを、
知識の説明だけで終わらせず、
参加者が自分の仕事に置き換えて考え、
職場で実際に使える判断や行動へつなげる研修
を行っています。


