ストレス研究memo
タニカワ久美子のストレス研究memoVol.182
2024年12月22日更新
2024年も残すとこ10日を切りました。今年はどんな年でしたか?こんにちは、タニカワ久美子です。私は、ストレス研究論文に2024年の1年間を捧げたと言っても過言ではない年でした。何回めげそうになっか事かわかりません。けれどもようやく終わりを告げようとしています。けんこう総研ホームページでのストレス研究memoブログでは、備忘録が多すぎてわけわからなくなっているかもしれません。来年2025年は、通常運転で 楽しくなるストレス軽減ブログをつづっていきます。お楽しみに。では、最終段階の研究論文にもう少しおつきあいください。
本研究は、職場環境下での心拍数変動も焦点を当て、顕在性不安度および運動習慣が心拍応答に及ぼす影響を探索的に検討したパイロットスタディである。心拍数が運動中や運動後に示す動態は、心血管系および自律神経系の健全性を反映しており、健康促進やストレス管理の観点から重要な指標となる。本節では、運動習慣、不安顕在度、性差といった要因が本研究の観察結果にどのように関与するかを検討し、得られた知見を整理する。
1. 運動習慣と心拍数変動の関連性
先行研究において、定期的な運動習慣が心拍数の調整能力を高めることが報告されている。 しかし、本研究では、運動習慣の有無と心拍数変動に一貫した関連性を示すデータは得られなかった。この要因として、参加者の健康状態や自律神経バランス、心理的ストレス感受性といった多面的な要因が、運動時の心拍数動態に影響を及ぼした可能性がある。運動習慣がある参加者は、中等度の運動時に心拍数が効率的に変動し、過剰な負荷を回避しながら運動を継続する能力が示唆された。一方、運動習慣のない参加者は、負荷に対する心拍反応が限定的であり、運動適応性の個人差が顕著であった。これらの結果は、運動習慣が一様に個人に影響を与えるわけではなく、生理的・心理的特性を考慮した個別評価・介入の重要性を示唆している。
2. 顕在性不安度と心拍数動態
顕在性不安度と心拍数変動の関連性について検討した結果、両者間に明確な相関は認められなかった。顕在性不安度が高い群では、運動中の心拍数が大きく変動し(最大心拍数146 bpm、変動幅94 bpm)、交感神経の過活動が示唆された。一方、不安度が低い群では心拍反応が限定的であった。この結果は、不安度が高いことが必ずしも過剰な心拍応答を引き起こすとは限らないことを示している。
さらに、本研究対象であるデスクワーカーにおいて、日常的な身体活動レベルや職場環境下での心理的ストレス負荷が個々に異なるため、顕在性不安度と心拍応答の関係が一様でなかった可能性がある。これらの結果は、顕在性不安度と心拍応答の関係を評価する際に、環境要因や個人差を考慮する必要性を示唆している。
3. 性差による心拍数変動特性の相違
同一の運動負荷条件下において、男性と女性の間で心拍数変動および運動反応性に明確な差異が認められた。男性参加者は高負荷時に心拍数が急激に上昇し、交感神経の顕著な活性化が示唆された。一方、女性参加者は心拍数の増加が緩やかで、心拍数が比較的狭い生理的範囲内で推移し、安定した心血管応答が観察された。これらの結果は、性別による自律神経の基礎的バランスに違いを反映している可能性がある。先行研究 によれば、男性では交感神経活動が優位になりやすく、女性では副交感神経活動が安定して保持される傾向が示唆されている。これらの性差を踏まえると、個別化された運動プログラムや、職場におけるストレス軽減策の設計が求められる。
4. 個別化された運動・ストレス管理プログラムの必要性
本研究の結果は、一律の運動・ストレス管理プログラムでは個人差を十分に反映できないことを示唆している。男性の場合、高負荷時の急激な心拍反応を抑制するためには、時間や強度の適切な調整が必要である。一方、女性の場合、持続的かつ適度な運動負荷を活用することで、安定した心肺応答が得られるとともに、心肺機能の向上も期待できる。また、顕在性不安度や運動習慣の有無に加え、各個人の自律神経バランスや心理的ストレス耐性を考慮したオーダーメイド型の介入が、より効果的なストレス管理および健康増進に寄与すると考えられる。
限界と今後の課題
本研究はパイロットスタディであり、サンプルサイズが小規模で対象が限定的であることから、知見の一般化には限界がある。今後は、より大規模で多様な対象者を含む追跡調査や、心理・生理指標を統合した多面的な分析が求められる。また、長期的な運動介入や異なる運動強度を組み合わせた研究を通じて、持続的なプログラム開発に貢献する知見が期待される。
結論
本研究は、顕在性不安度や運動習慣が心拍数変動に与える影響を探索的に検討し、個々の生理的・心理的特性および性差が心拍数応答に重要な影響を与える可能性を示唆した。これらの知見は、職場環境におけるストレス管理や健康促進のために、個別化・多様化した介入策を構築する必要性を示している。今後の研究では、サンプル拡大や長期評価を通じて、ストレス管理の一般指針を確立することが期待される。