ストレス研究memo
タニカワ久美子のストレス管理研究memoVol.162
2024年11月5日更新
こんにちは、けんこう総研のタニカワです。今日は心拍数と心拍変動についての先行研究論文を含めて解説していきます。
そもそも論ですが、心拍数(Heart Rate, HR)は、1分間に心臓が拍動する回数を言いますよね。
心拍数は、心臓の拍動リズム(ペース)を表す重要な指標です。身体の生理的状態やストレスレベルを示す生体指標でもあります。健康や運動時の適応反応を知るために学術研究や医療現場でも頻繁に測定されています。
心拍数のメカニズム
心拍数は、心臓のペースメーカーである洞房結節(Sinoatrial Node, SA Node)により自律的に生成される電気的インパルスによって制御されています。このインパルスは心筋に伝わり、収縮と拡張を引き起こします。
・健康な成人の安静時心拍数は、60〜100回/分範囲です。
心拍数と自律神経
心拍数は、自律神経系である交感神経と副交感神経の活動の影響を受けます。
運動やストレスに反応して交感神経が活性化すると心拍数が上昇し、リラックス時には副交感神経の働きにより心拍数が低下します。この変動性のことを心拍変動(Heart Rate Variability, HRV)と呼んでいます。
心拍数と健康指標
心拍数は、単に心臓の拍動リズムだけではありません。健康状態の把握にも役立ちます。
・高い安静時心拍数は、高血圧や心血管疾患のリスク上昇と関連します。
・適切な運動を継続することで安静時心拍数が低下し、心臓の効率が改善されます。
ストレスの増減に伴う心拍数変動が測定されることから、精神的健康にも関与する指標として心理学的研究でも使用されています。
心拍数の測定方法
心拍数は、ウエアラブルデバイス(心拍計付きスマートウォッチ)や医療機器(ECG、エレクトロカルディオグラム)で測定できます。
特に、ウエアラブルデバイスは、手軽にリアルタイムのデータ収集ができ、健康管理やストレスモニタリングにも活用されています。
心拍数はこうした多様な要因によって変動するため、ストレス研究や健康指導の場面において重要な生体指標となっています。
心拍変動とは?
心拍変動(Heart Rate Variability, HRV)は、連続する心拍間の時間(心拍間隔、通常はR-R間隔)に生じる変動のことを言います。
単に「心拍数」ではなく、心拍同士の「間隔の長さ」の変動が測定される点で、より精密な生理指標です。
HRVは、心拍の高低差よりも、拍と拍の間隔の長さが変動することに注目する指標であり、自律神経系のバランス、特に交感神経と副交感神経の活動を反映しています。
心拍変動のメカニズムと意義
心拍変動は、主に自律神経系の影響を受けます。
・交感神経は心拍数を増加させる
・副交感神経は減少させる方向に働きます。
この2つの自律神経がバランスを取りながら心臓に影響を及ぼすことで、心拍間隔の長さがわずかに変動します。この変動が「心拍変動」として観察されます。
交感神経の活動
・ストレスや運動、興奮などによって心拍数が上昇するが、心拍変動は低下します。
・リラックス状態や睡眠中に心拍数が低下、心拍変動は増加します。
時系列データを分析するためのポイント
個人の自律神経系の調整力やストレス反応を客観的に評価するための時系列分析
1.基礎統計量の計算
運動習慣や不安レベルが異なる参加者間での差異を把握するために、参加者ごとに平均心拍数、心拍変動の標準偏差(SDNN)やRMSSDなどの指標を計算することで、個々の生理的反応を比較できます。
2.短期間の変動と安定性
心拍変動(HRV)指標を算出する際、15秒または30秒単位での変動を確認し、交感・副交感神経の影響が見られるかどうかを分析します。短時間での変動が大きい場合、自律神経系が活発に反応していると考えられます。
3.運動習慣と不安顕在度の違いの考慮
運動習慣がある参加者とない参加者、また不安顕在度が異なる参加者においては、心拍変動の特徴も異なる傾向があります。
習慣がある人は一般的にHRVが高い傾向にあり、不安度が高い人はHRVが低下する傾向があります。この違いを各グループ間で統計的に比較することがポイントです
心拍変動の意義と健康指標としての活用
心拍変動が低い場合は、ストレス状態が持続していて、心血管疾患のリスクが高まります。
HRVは、ストレスマネジメントにおいても有効な指標です。HRVモニタリングを行うことで、ストレスの増減やリラックス状態をリアルタイムに評価できるため、日常的なストレス管理やメンタルヘルスの向上にも役立ちます。タニカワの研究では、HRVトレーニングによって、心拍変動を増やし、ストレス耐性を高める研修が注目されています。
職場環境下での運動が心拍変動(HRV)に与える影響を検討した先行研究
1. 「職場の運動プログラムによる労働生産性等の変化に関する介入研究」
日本の中小企業の従業員を対象に、職場での運動プログラムが身体活動量、労働生産性、職場の一体感、ワーク・エンゲイジメントに与える影響の調査。
2. 「職場で行う運動介入が大学教職員の心身の健康に及ぼす影響」
名古屋大学の教職員を対象に、職場での運動プログラムが心身の健康に与える影響を検討した研究。
3. 「労働者のストレス対処能力の向上における生活習慣改善の効果」
生活習慣の改善、特に運動習慣の導入が労働者のストレス対処能力や心拍変動に与える影響の調査。
4. 職場での短時間の身体活動がHRVに及ぼす影響
Vasconcellos, F. et al. (2020)
短時間の有酸素運動や軽い筋力トレーニングが、職場環境でもHRVに正の影響を与えることを示唆した研究。特に、リラックスと活力向上の両面で効果と、日常業務における心理的ストレスの低減が確認された。
5. 勤務中の運動とHRVの関係性に関するメタ分析
Healy, G. N., et al. (2019)
メタ分析で、多くの職場で行われた運動介入研究を比較し、一般的に軽度から中程度の運動( 短いストレッチやウォーキング)でもHRVが改善した。特に運動習慣の有無や不安の高低に関係なくHRVが改善される可能性が示されています。
6. 心拍変動とストレス応答に対する運動介入の実験
Andrade, A., et al. (2021)
不安レベルが高いグループに焦点を当て、職場内の運動がHRVに与える影響の評価。運動前に不安が高い人ほどHRVの向上幅が大きく、日常業務においてもストレス管理が可能であることが示されています。
このように、職場環境で行う運動が心拍変動(HRV)に及ぼす影響を検証したものは増えてきており、近年のストレス軽減や健康管理の研究の一環として注目されています。